このページの要点
- 従業員を使用しない個人と、代表者以外に役員も従業員もいない法人は、特定受託事業者に当たり得る(2条1項)。
- 期間を問わず3条・4条、1か月以上で5条、6か月以上で13条1項の配慮義務と16条の30日前の予告が加わる。
- 契約書が出ない取引では、業務の範囲・報酬・納期と検収・支払期日・成果物の権利の5項目をメールでもらう。
- 「1か月前」は2月をはさむと30日未満になり得る。予告の期間は「30日前」と書く。
最初に押さえること:自分が守られる側か、どの条がかかるかを順番に確かめる
フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、業務委託を受ける個人や一人法人を守るための法律です。けれども、受注者の側から見ると、「この法律があるから大丈夫」とは言い切れません。法律の義務の多くは、発注者が従業員を使用しているかどうか(法人なら役員が二人以上いるかどうかも)、取引がどのくらいの期間続くかによって、かかったりかからなかったりするからです。
事務所が受注者の側で契約書を読むときは、次の順番でフリーランス法との関係を確かめています。
- 自分(受注者)は「特定受託事業者」に当たるか。
- 発注者は「特定業務委託事業者」(従業員を使用する個人、又は役員が二人以上いるか従業員を使用する法人)か、それ以外の「業務委託事業者」か。
- 取引は、どのくらいの期間続く見込みか(1か月以上か、6か月以上か。更新で通算されるか)。
- その結果かかる条項に照らして、契約書の支払期日・解除の予告・配慮の定めが合っているか。
法律の義務は発注者に向けられたもので、受注者の側で何かを守らなければならないわけではありません。それでも受注者が確かめておく意味は、法律が求める水準と契約書の定めを比べて、足りない部分を契約書に書かせることにあります。法律の適用があいまいな取引でも、契約書に書いておけば、契約上の根拠として主張できます。支払条件の読み方の全体は報酬と支払条件のページで扱います。
自分は特定受託事業者か:個人・一人法人・アシスタントを雇ったとき
特定受託事業者とは、業務委託の相手方である事業者で、①個人であって従業員を使用しないもの、又は②法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ従業員を使用しないもの、をいいます(フリーランス法2条1項1号・2号)。副業で仕事を受ける会社員も、事業者として業務委託を受けていれば、個人として①に当たり得ます。
見落とされやすいのが②の一人法人です。仲介会社経由で開発支援に入る方や、コンサルタントとして一人で法人を設立している方の案件では、代表者以外に役員がおらず従業員もいなければ、法人であっても特定受託事業者に当たり得ることを確認しました。自分の契約書を顧客に出しているコンサルタントの方には、受注者が「保護される側」になり得るので、顧客の法務部門から法律の適用について照会を受けることに備えておくよう助言しています。
「従業員を使用する」かどうかについて、公正取引委員会と厚生労働省が示している考え方では、1週間の所定労働時間が20時間以上で、かつ継続して31日以上雇用されることが見込まれる労働者を雇用している場合をいうとされています。取引先から秘密保持契約書を受け取ったWebディレクターの方の案件では、外注の協力者に仕事を手伝ってもらっていても、雇用しているわけではないので、本人の保護は続くと整理しました。反対に、補助をする人をこの条件で雇えば、その間は本人が特定受託事業者から外れることになります。
受注者の形と、特定受託事業者に当たるか
| 受注者の形 | 当たるか | 確かめること |
|---|---|---|
| 個人事業主(従業員なし) | 当たり得る(2条1項1号) | 業務委託として受けているか |
| 副業の会社員 | 事業者として受けていれば当たり得る | 勤務先の副業の規程とは別の問題 |
| 一人法人(代表者のみ、従業員なし) | 当たり得る(2条1項2号) | 他の役員がいないか |
| 外注の協力者に手伝ってもらう個人 | 雇用していなければ当たり得る | 協力者との関係が雇用になっていないか |
| 週20時間以上・31日以上の見込みで人を雇った個人 | その間は当たらない | 雇用の時間と期間の見込み |
発注者の側の区分も確かめます。特定受託事業者に業務委託をする事業者は「業務委託事業者」(2条5項)で、取引条件の明示(3条)の義務を負います。このうち、従業員を使用する個人と、役員が二人以上いるか従業員を使用する法人が「特定業務委託事業者」(2条6項)で、支払期日の定め(4条)以下の義務も負います。特定業務委託事業者に当たらない発注者(従業員のいない個人や、役員が代表者一人だけで従業員もいない法人)は、4条以下の多くの義務を負いません。個人から個人への発注でも、発注者が従業員を使用していれば特定業務委託事業者になります。
受注者が保護される側に当たる場合でも、発注者や取引の規模によっては、取適法(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律。下請法が改正され、2026年1月1日から施行)が重ねて適用される可能性があります。取適法は、発注する側と受注する側の資本金や従業員の数の区分、取引の内容によって適用が決まる法律で、個人の受注者も対象に含まれます。契約書の中で特定の法律に基づいて支払期日を定める、と書くこともありますが、その場合は、その法律が実際に適用される取引かどうかを確かめておくことが前提になります。
期間で広がる保護の段階
受注者の側から見ると、フリーランス法の保護は、取引が続く期間に応じて段階的に広がります。受注者が特定受託事業者、発注者が特定業務委託事業者に当たる取引で、加わる規律を期間ごとに並べると次のとおりです。
期間ごとに加わる保護(受注者が特定受託事業者、発注者が特定業務委託事業者の場合)
- 期間を問わず取引条件の明示(3条)、受領から60日以内の支払期日(4条)、募集情報の的確な表示(12条)、ハラスメントへの体制の整備(14条)。
- 1か月以上続くとき受領の拒否・報酬の減額・返品・買いたたき・購入や利用の強制の禁止、不当な経済上の利益の提供の要請や給付の内容の変更・やり直しの禁止(5条。期間は施行令1条で1か月)。
- 6か月以上続くとき育児・介護などへの配慮の義務(13条1項)と、解除・不更新の30日前の予告(16条1項)。期間は施行令3条で6か月。6か月未満の取引でも、配慮は努力義務(13条2項)。
1か月や3か月で区切って更新する契約でも、更新により継続して行うこととなるものは期間に含まれるため(5条1項・13条1項の括弧書)、取引が続くほど保護が広がります。
5条の禁止行為のうち、受領の拒否(1項1号)と返品(1項3号)は、役務の提供を委託する場合にはかかりません(5条1項柱書の括弧書)。成果物を作って納める業務(情報成果物の作成の委託)なのか、役務を提供する業務なのかで、かかる禁止行為が違います。受注者が自分で用意した構築代行の契約書では、成果物型の個別の業務について発注者が無条件に取りやめられる権利を置くと、受領の拒否の禁止との関係でも問題になり得ると整理し、取りやめを受注者の責めによる場合か受注者の同意がある場合に限りました(解約・解除と精算)。
法律に違反する事実があるとき、受注者は、3条から5条などの取引の規律については公正取引委員会又は中小企業庁長官に(6条1項)、12条から16条などの就業環境の規律については厚生労働大臣に(17条1項)、その旨を申し出て適当な措置を求めることができます。申出をしたことを理由に、取引の数量の削減や取引の停止などの不利益な取扱いをすることは禁止されています(6条3項、17条3項)。
契約書が出てこない取引:メールで示してもらう5つの項目
取引先から秘密保持契約書だけが出され、業務委託契約書は出ない見込みだったWebディレクターの方の案件では、契約書がないことを前提に、発注のときのメールなどで次の5項目を示してもらうよう助言しました。フリーランス法3条1項は、発注した業務委託事業者に対し、発注の直後に、何を納めてもらうか、報酬はいくらか、いつ払うかなどを、書面か電磁的方法で受注者に示すよう義務付けています。受注者の側からこの5項目を尋ねることは、発注者が本来すべき明示を促すことでもあります。
確かめる問い 発注のメールで示してもらう5項目
- 業務の内容と範囲(修正は何回までか)範囲と修正回数が決まっていないと、報酬の範囲内の作業がどこまでか分かりません。
- 報酬(税込か税抜か)税込か税抜かで、実際に受け取る額が変わります。
- 納期と検収いつまでに納め、いつまでに確認してもらうかが、支払の時期につながります。
- 支払期日受領から60日以内かどうかを確かめます。
- 成果物の権利(譲渡か許諾か、汎用的な部分を他の案件で使えるか)契約書がないまま納品すると、権利の扱いが後から争いになります。
電磁的方法で明示を受けた場合でも、受注者が書面の交付を求めたときは、原則として遅滞なく交付しなければなりません(3条2項)。
この案件では、秘密保持契約書に提案する修正の条文も、「別途書面又は電磁的記録により合意した場合には、当該合意による」という形にして、業務委託契約書がなくても機能するようにしました。契約書が1本しか出てこない取引では、その1本の中に、メールでの合意を受け止める受け皿を作っておくことが大切です。
設立から間もない会社からコーチングを受託する方の契約では、個別契約の書式の締結日と受注者の欄が空欄でした。基本契約に署名した後の個別の発注で、業務の内容・成果物・報酬額・支払期日が必ず示されるかを確認し、業務の一部で報酬の体系が異なる予定だったため、その内容を事前に共有してもらうよう依頼しました(締結前の確認)。
60日の数え方と「月末締め翌月末払い」
特定業務委託事業者が業務委託をしたとき、報酬の支払期日は、給付の内容を検査するかどうかを問わず、給付を受領した日(役務の提供の委託なら、役務の提供を受けた日)から起算して60日の期間内で、かつできる限り短い期間内で定めなければなりません(フリーランス法4条1項)。支払期日を定めなかったときは受領した日が、60日を超えて定めたときは受領した日から起算して60日を経過する日が、それぞれ支払期日とみなされます(同条2項)。
月末締め翌月末払いは、多くの場合60日以内に収まります。ところが、受注者が自分で用意した構築代行の契約書を作るときに、この形がいつも60日以内に収まるわけではないことが問題になりました。受領した日を1日目として数えると、10月1日に納品した成果物を「月末締め翌月末払い」で11月30日に支払うと、61日目になります。
月末締め翌月末払いと60日の関係
| 納品(受領)日 | 月末締め翌月末払いの支払日 | 受領日を1日目とした日数 |
|---|---|---|
| 10月20日 | 11月30日 | 42日目(60日以内) |
| 10月2日 | 11月30日 | 60日目(60日以内) |
| 10月1日 | 11月30日 | 61日目(60日を超える) |
31日まである月の初日に納品すると、翌月末払いでは60日を超えます。
役務の提供が連続して行われる場合には、月単位で締切日と報酬の額を明記しておけば、締切日を起点にできるという扱いが、公正取引委員会と厚生労働省の考え方で示されています。しかし、成果物を納める構築の作業には、この扱いがありません。そこで、構築代行の契約書では、成果物が納品された月の月額報酬は当月の初日から60日目、個別の業務は完了日から60日目が、翌月末より前に来るときはその日までに支払う、と条文にしました。
条文例翌月末払いを60日以内に収める定め(例)
1甲は、各月の業務の報酬を、当月末日で締め、翌月末日までに支払う。
2前項にかかわらず、成果物が納品された月の報酬については当該月の初日から起算して60日目の日が、個別業務の報酬については当該個別業務の完了日から起算して60日目の日が、それぞれ前項の支払期日より前に到来するときは、甲は、当該60日目の日までに支払う。
法律の上限を契約書の中で計算できる形にしておくと、発注者の経理の担当者も迷わずに済みます。
なお、元の委託者から受けた業務を再委託する場合で、再委託である旨や元の委託の支払期日などを明示したときは、受注者への支払期日は、元の委託の支払期日を起点に30日の範囲で定めることが認められています(4条3項の特例)。多層の構造で仕事を受けるときは、この明示があるかどうかで、支払期日の上限の数え方が変わります。
「1か月前の予告」と「30日前の予告」
継続的業務委託(6か月以上の業務委託。施行令3条)の契約を解除しようとする場合や、期間の満了後に更新しない場合、特定業務委託事業者は、少なくとも30日前までにその予告をしなければなりません(フリーランス法16条1項)。予告の方法は、書面の交付、ファクシミリ、電子メール等の送信のいずれかによります(厚生労働省関係の施行規則3条1項)。予告を受けた受注者は、契約が満了する日までの間、解除の理由の開示を請求できます(16条2項)。
契約書では「1か月前までに通知する」と書かれていることがよくあります。ところが、1か月前は、2月をはさむと30日未満になり得ます。たとえば3月1日に終了する場合の1か月前は2月1日で、その間は28日しかありません。構築代行の契約書や、商品企画の契約、コンサルタントの自社の契約書のレビューでは、「1か月前」ではなく「30日前」と書くよう整理しました。
また、契約書に即時に解除できる事由を定めていても、それだけで予告が要らなくなるわけではありません。予告が不要になるのは、災害その他やむを得ない事由で予告が困難な場合、元の委託の契約が解除されて再委託の業務の大部分が不要になった場合、契約期間が30日以下の個別の契約を解除する場合、受注者の責めに帰すべき事由により直ちに解除することが必要と認められる場合など、施行規則に定める場合に限られます(同規則4条)。
受け取った条文の直し方 予告の期間の書き方
解約の予告
理由2月をはさむと1か月前は30日に満たないことがあり、法律の30日前の予告と食い違います。
即時解除
理由即時解除の事由があっても、施行規則の例外に当たらない限り予告が必要です。
契約期間を短く区切って更新する形の契約では、通算して6か月以上になると継続的業務委託に当たり、更新しない場合にも予告が必要になります。受け取った契約書が1か月や3か月の更新の形でも、更新が重なることを前提に、予告の定めを確かめておく必要があります。
配慮・ハラスメント・申出を、契約書に書き込む
フリーランス法13条の配慮の義務と14条のハラスメントへの体制の整備は、特定業務委託事業者の義務です。発注者が特定業務委託事業者に当たるかどうか分からない取引でも、契約書に書いておけば、配慮を求める契約上の根拠になります。受注者が自分で用意した構築代行の契約書では、配慮の対象を妊娠・出産に限らず「育児、介護その他の事情」に広げ、就業環境に関する定めを1つの項にまとめました。
商品企画の契約では、原文に、特定受託事業者のハラスメントの相談窓口が明記されていました。事務所のレビューはこれを肯定的に評価したうえで、相談をした後の対応の流れも明記するよう提案しました。窓口があっても、相談した後に何が起きるかが分からなければ、受注者は相談をためらいます。相談をしたことや、相談への対応に協力して事実を述べたことを理由に、契約の解除などの不利益な取扱いをすることは禁止されています(14条2項)。
もう一つ、受注者の側で入れておきたいのが、申出を秘密保持の違反にしない定めです。構築代行の契約書では、公益通報と、フリーランス法6条1項・17条1項の申出に必要な範囲の情報の開示を、秘密保持の義務の適用除外としました。秘密保持の条項が広いと、行政機関への申出に取引の内容を伝えること自体が契約違反だと主張されかねないからです(秘密保持・NDA)。
条文例配慮と申出の定め(例)
1甲は、乙から申出があったときは、乙が妊娠、出産、育児、介護その他の事情と両立しつつ本件業務に従事することができるよう、その状況に応じて必要な配慮をする。
2甲は、本件業務に関して行われる言動により乙の就業環境が害されることのないよう、乙からの相談に応じ、適切に対応する。甲は、乙が相談をしたことを理由として、乙に対し不利益な取扱いをしない。
3乙が、法令に基づく公益通報、又は特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律第6条第1項若しくは第17条第1項の申出に必要な範囲で秘密情報を開示することは、本契約の秘密保持の義務に違反しない。
第1項・第2項は、発注者が法律上の義務を負うかどうかにかかわらず、契約上の約束として機能します。
受注者に起きがちなこと
よくあるご質問
自分は「特定受託事業者」に当たりますか?
従業員を使用しない個人、又は代表者以外に役員がおらず従業員も使用しない法人が当たります(フリーランス法2条1項)。副業の会社員でも、事業者として業務委託を受けていれば当たり得ます。従業員を使用するかどうかは、週20時間以上・31日以上の雇用の見込みがあるかで判断するとされています。
一人法人でも、フリーランス法で守られますか?
代表者以外に役員がなく、従業員も使用していなければ、法人であっても特定受託事業者に当たり得ます(2条1項2号)。契約の主体が法人であることを確かめたうえで、支払期日や予告の定めを法律と比べておきます。
月末締め翌月末払いは、いつも60日以内ですか?
多くの場合は60日以内ですが、31日まである月の初日に納品すると、翌月末の支払は受領日から61日目になります。受注者の側で書くときは、60日目が翌月末より先に来る場合はその日までに支払う、と定めておくと安全です。
「1か月前の予告」と「30日前の予告」は違うのですか?
違います。2月をはさむと1か月前は30日に満たないことがあります。6か月以上続く取引では、発注者は少なくとも30日前までに解除や不更新を予告しなければならないため、契約書でも「30日前」と書くのが確実です。
契約書がない取引では、何をメールでもらえばよいですか?
業務の内容と範囲(修正回数を含む)、報酬(税込か税抜か)、納期と検収、支払期日、成果物の権利の5つです。業務委託事業者には取引条件を書面又は電磁的方法で明示する義務があり(フリーランス法3条1項)、これを尋ねることは明示を促すことにもなります。
あわせて読みたい、関連する別のガイド
- フリーランス法・取適法と運送の委託軽貨物・運送と車両の契約書ガイド
- 取適法(旧下請法)と継続的取引の終了取引基本契約・製造委託(OEM)契約書ガイド
あわせて読みたいページ
本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への法律の適用は、当事者の属性や取引の内容によって異なることがあります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が受注者(業務を請ける側)の立場で作成・レビューしてきた業務委託契約書、基本契約・個別契約、秘密保持契約書、誓約書、先方へ送る修正のお願いの文案などを、個別の依頼者・相手方が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月17日)。参考: e-Gov法令検索 / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会) / 法人番号公表サイト(国税庁)