このページの要点
- 競業避止は、削除・期間中に限る・業種と地域の限定・継続中の取引先の除外・事前通知で対象外、の順に次善策を用意する。
- 再委託の全面禁止は、主要な部分だけ承諾制にし、補助者は通知で足り、法人の役員・従業員の分担は再委託に当たらないとする。
- 多層の構造では、指示は発注者が指定した担当者からに限り、第三者の直接の指示には従う義務を負わないと定める。
- 「何時でも」「直ちに」、勤務日時や場所の固定など、独立した事業者の実態とずれる文言を直す。
最初に押さえること:受注者の事業の自由を、どこまで手放すかを決める
競業避止・直接取引の禁止・再委託の制限・指示の条項は、どれも、受注者が自分の事業をどこまで自由に営めるかを決める条項です。業務委託の受注者は、複数の取引先から仕事を受け、必要に応じて協力者の手を借り、自分の裁量で仕事を進める独立した事業者です。ところが、受け取った契約書の中には、受注者を一つの取引先に縛り付け、協力者を使えなくし、発注者の指示に従わせる条項が並んでいることがあります。
事務所は、これらの条項を次の観点で読んでいます。
- 競業避止・直接取引の禁止は、期間・対象・地域が限定されているか。受注者の既存の仕事と衝突しないか。
- 再委託は、全面的に禁止されていないか。承諾の基準と、補助者の扱いはどうか。
- 指示は、誰から、どの範囲で受けるのか。多層の構造で、指示の系統が決まっているか。
- 調査・報告・時間・場所の文言が、独立した事業者としての実態とずれていないか。
このページでは、受け取った条項を受注者の側から段階的に緩める次善策、多層の構造での指示の系統、雇用から業務委託に切り替えるときの注意を中心に紹介します。秘密保持契約書の中に入り込んだ競業避止は秘密保持・NDA、賠償との関係は損害賠償の上限のページもあわせてご覧ください。
競業避止・直接取引の禁止を、段階的に緩める
競業避止の条項がなければ、秘密保持の義務に反しない限り、受注者は同業の仕事を自由に受けられます。職業選択の自由(憲法22条1項)が背景にあり、システム開発会社から時給制で受ける副業エンジニアの方や、EC運営会社から受託する方の契約のレビューでは、競業避止の条項がないことを安心材料として依頼者に伝えました。
ただし、競業避止の条項がなくても、秘密保持の義務と直接取引の禁止の条項は残ります。同業の仕事を受けるときに、前の取引先の秘密情報を使わないこと、紹介された顧客と直接取引しないことは、競業避止とは別の義務として守る必要があります。競業避止の条項がない契約であっても、秘密保持と直接取引の禁止の範囲を確かめておけば、同業の仕事を受けるときに迷わずに済みます。
競業避止の条項がある場合は、その範囲を確かめます。個人のキャリアコンサルタントの方がスタートアップからキャリア面談を受託する契約では、競業の定義・地域・期間の限定がなく、キャリアの支援をする限り事実上すべての仕事が制限される書き方でした。事務所は、「契約期間中及び終了後1年間、甲の事業と直接競合する企業に限る」とし、競合する企業を具体的に例示する形を提案しました。
仲介会社が登録パートナーに再委託する基本契約には、終了後3年間、発注者のクライアントとの直接・間接の取引を広く禁止する定めがありました。範囲が広すぎて公序良俗(民法90条)に反し無効とされるおそれがあると指摘し、1年から2年に短縮するよう提案しています。
キャリア面談の契約で競合する企業を具体的に例示する形を提案したのは、何が「競合」に当たるのかを、受注者が事前に判断できるようにするためです。「甲の事業と競合する事業」とだけ書かれていると、どこまでが競合かは発注者の解釈次第になります。名前が挙がっていれば、少なくともその企業の仕事は受けない、それ以外は受けられる、という線が見えます。
副業のクリエイターが大きな会社の事業部門から支援を受ける契約では、競業避止の条項が、受注者の既存の仕事(飲食業向けの別の業務委託と、派遣での就業)と抵触していました。この案件では、削除が理想としたうえで、難しい場合の次善策を段階的に示しました。
競業避止を受注者の側から段階的に緩める次善策
- 削除をお願いする秘密保持の義務で発注者の情報は守られることを説明する。
- 契約期間中に限る終了後の制限を外す。
- 業種・地域を限定する発注者の事業と直接競合する業種・地域に絞る。
- 継続中の取引先を除く契約の時点で受注者が取引している先は対象外とする。
- 事前の通知で対象外にする新しい仕事を受けるときに通知すれば、対象外として扱う。
どの段階で合意するかは、受注者の既存の仕事と、今後受けたい仕事の内容で決まります。副業の許可は、本業の側で正式に取得して書面で保存しておくよう助言しました。
情報セキュリティ業務の受託者の方の契約では、契約期間中と終了後1年間、発注者の顧客との直接の取引を禁止していました。事務所は、対象となる「顧客」の範囲、直接と間接の区別、既に取引関係がある先の例外を明確にするよう提案しました。直接取引の禁止は、発注者が紹介した顧客を受注者が奪うことを防ぐという正当な目的がありますが、受注者が自分で開拓した顧客や、契約の前から取引のある顧客まで対象に含めるのは、目的を超えています。
受注者の側で書く競業の定め
受注者が自分で契約書を用意する場合は、競業の定めをどう書くかも受注者が決められます。製造業の新しい拠点の立上げに数年単位で参画する専門家のために作成したと見られる基本合意書では、有効期間中に限り、営業秘密等を使って相手方の正当な利益を害する形の競合を禁止し、一般的な知識・技能・人脈は制限しない、終了後の競業避止は置かない、と定めていました。
オンライン講座の事業者の販売導線の構築を受ける方が自分で用意した契約書では、構築の代行を事業とする受注者に広い競業の禁止を課すと、事業そのものの制約になるため、競業の禁止は置かず、秘密情報を他の業務に流用しない秘密保持の定めで発注者の懸念に応える形にしました。発注者から求められた場合は、対象を直接の競合先に、期間を契約期間中に限定する、という方針です。
条文例受注者の側で書く競業の定め(例)
1乙は、本契約の有効期間中、甲から開示された秘密情報を用いて、甲の正当な利益を害する態様で甲の事業と競合する行為をしてはならない。
2前項の定めは、乙が本件業務の遂行を通じて習得した一般的な知識、技能及び経験並びに乙が独自に形成した人脈を用いて事業を行うことを制限するものではない。
3乙は、本契約の終了後、競業避止の義務を負わない。
秘密情報の流用を止めることで発注者の懸念に応え、受注者の事業の自由は残す書き方です。
再委託:全面禁止と完全な承諾制を直す
受注者が協力者に仕事の一部を手伝ってもらう、法人の役員や従業員と分担する、といった働き方は珍しくありません。ところが、受け取った契約書には、再委託を全面的に禁止する条項がよくあります。商品企画の契約の原文がそうでした。事務所は、主要な部分についてだけ事前の承諾を要することとし、法人の役員・従業員への分担は再委託に当たらないこと、再委託先に同等の守秘義務を課すことを提案しました。
雇用からの切替えの基本契約では、再委託は完全な承諾制で、承諾を拒む理由に限定がなく、さらに再委託先と発注者の間で直接の義務を約束する合意書を求めていました。事務所は、「合理的な理由なく承諾を拒まない」を加え、直接の義務の条項は削除するか範囲を限定するよう提案しました。
再委託の条項の直し方
| 受け取った書き方 | 直し方 | 見られた契約 |
|---|---|---|
| 全面禁止 | 主要な部分だけ事前の承諾制。法人の役員・従業員の分担は再委託に当たらない。再委託先に同等の守秘義務 | 商品企画の契約 |
| 完全な承諾制・拒否の理由の限定なし | 「合理的な理由なく承諾を拒まない」。再委託先と発注者の直接の義務の合意書は削除・限定 | 雇用からの切替えの基本契約 |
| 補助者の扱いの定めなし | 軽微な補助業務・補助者は事前の通知で足りる。金融機関への債権の譲渡は例外 | クリエイティブ支援の月額契約、在宅の成果物の約款 |
| 再委託先の過失まで全部の責任 | 再委託先の過失まで受注者が全部を負うのは過重と指摘 | Webシステムの開発 |
| 乙の責任での再委託 | 「乙の責任において、第三者に再委託することができる」。個人情報を扱わせるときだけ事前の通知、甲は合理的な理由がなければ拒めない | 申請支援の事業の基本契約 |
クリエイティブ支援の月額契約では、再委託を認めてもらうための説得の材料として、秘密保持と成果物の管理の責任は受注者が負うことを明示する、という方法を示しました。発注者が再委託を嫌がる理由の多くは、知らない人に情報が渡ること、品質が下がることへの懸念です。その懸念に受注者の責任で応える、と書けば、発注者の判断はしやすくなります。講師の業務を受ける方の秘密保持契約書のレビューでは、講師の補助者が、実質的に再委託に当たる可能性がある点にも触れています。
申請支援の事業の基本契約では、あわせて生成AIの利用の条項を新設しました。発注者の機密情報・個人情報・顧客を識別できる情報は第三者のAIに入力しないこと、AIの提供者が入力した情報を保存・学習に使うかどうかの扱いを確認することを定めています。外部のAIに情報を入力することは、情報を第三者に渡すことにもつながるため、再委託や秘密保持の条項と並べて扱いを決めておきます。
条文例受注者の側で書く再委託の定め(例)
1乙は、乙の責任において、本件業務の一部を第三者に再委託することができる。ただし、本件業務の主要な部分を再委託するときは、事前に甲の承諾を得るものとし、甲は、合理的な理由なくこれを拒まない。
2乙が法人である場合に、乙の役員又は従業員に本件業務を分担させることは、前項の再委託に当たらない。軽微な補助業務を補助者に行わせるときは、事前に甲に通知すれば足りる。
3乙は、再委託先に対し、本契約に定める秘密保持の義務と同等の義務を課し、その遵守のために必要な措置を講ずる。
4乙は、再委託先に甲の個人情報を取り扱わせるときは、事前に甲に通知する。
「乙の責任において」と書くことで、再委託しても受注者が発注者に対して責任を負うことを明らかにし、発注者の懸念に応えています。
多層の構造での指示の系統
多層の下請の二次受けとして、店舗の照明機材の更新と設定を受けた方の案件では、現場に元請、施設の管理者、他の施工業者がいて、それぞれから直接指示が来る可能性がありました。受注者の契約の相手方は一次受けの会社だけですが、現場では誰の指示に従えばよいかが分からなくなります。事務所の対案では、指示の系統を次のように定めました。
- 指示は、発注者が指定した担当者からのものに限る。指示は業務の範囲の変更を含まない。
- 元請・施設の管理者・他の施工業者から受注者に直接指示が来ないよう、発注者が管理する。
- 第三者からの直接の指示には、従う義務も、結果についての責任も負わない。
- 緊急の場合は、合理的な範囲で対応し、事後に報告する。
オンライン講座の事業者の販売導線の構築を受ける方が自分で用意した契約書では、承認の担当者を発注者の代表者と特定し、それ以外の人からの指示には「従うことができるが、従う義務を負わず」、確認が取れるまで保留できる、としました。依頼者からは「承認担当者以外の指示に従ってはいけないのか」という質問がありましたが、従ってはいけないのではなく、従う義務がない、という書き方です。発注者の側の担当者が複数いて、指示が食い違うことがある業務では、この一文が受注者を守ります(業務範囲・修正回数)。
独立性:調査・報告・時間・場所の文言を、実態に合わせる
業務委託の受注者は、独立した事業者として、自分の裁量で仕事を進めます。ところが、受け取った契約書の中には、雇用契約のような文言が入っていることがあります。こうした文言は、受注者の働き方を縛るだけでなく、契約の題名と中身がずれる原因になります。事務所は、契約書の文言が実際の働き方とずれないよう、次のような修正を提案しています。
受け取った条文の直し方 独立性に関わる文言
調査と指示
理由発注者が業務の結果を確かめることと、作業の進め方を細かく指示することは別です。
報告
理由「何時でも」「直ちに」は、受注者の時間を発注者が自由に使える書き方です。
勤務の日時
理由子どもの迎えで抜けられるかという依頼者の心配に応える修正でした。
場所
理由場所を発注者が決める書き方は、働き方の実態とずれていました。
クリエイティブ支援の月額契約では、発注者の指示は「業務内容に関する連絡に限定される」と明記するよう提案しました。EC運営会社から受託する方の契約では、作業の場所と時間を発注者が指定する条項だけが、独立性の観点で気になる点でした。依頼者からは「雇用と判断されないか」という質問がありましたが、事務所は、実際の働き方の判断には踏み込まず、条項としての指摘にとどめています。
長期の参画の基本合意書では、受注者は「現地若しくは製造現場に常時常駐し、日常的な製造作業に継続して従事する製造要員としてではなく」主体的に関与すること、「常時常駐その他継続的な労務提供義務を課す趣旨ではない」こと、受注者は専属ではない独立した事業者であることを明記していました。Webシステムの開発の契約にあった「乙の従業員には乙の就業規則が適用され、乙は使用者としての責任を負う」という条項は、受注者が自分のスタッフを指揮していることを示す条項として重要ですが、スタッフがいない個人の受注者なら「該当なし」と明記しておくよう助言しました。
雇用から業務委託に切り替えるとき
元の勤務先との雇用を終えて、同じ会社と業務委託で仕事を続ける方の案件では、元の勤務先が用意した基本契約に、雇用の時の感覚が残った条項がいくつも見られました。独立事業者として「全ての責任」を負う条項、何時でも報告を求められる広い報告義務、発注者の諸規定の遵守、事務所や機器の貸与が有償か無償か決まっていない定めです。
確かめる問い 雇用から業務委託に切り替えるときに見るところ
- 発注者の諸規定の遵守は、どの規定を指すのか。事前に開示された規程に限る、と限定します。後から作られた規程まで守る義務を負わないようにします。
- 事務所・機器の貸与は、有償か無償か。決まっていないと、後から使用料を差し引かれる可能性があります。
- 報告・指示の条項に、雇用の時と同じ文言が残っていないか。「何時でも」「直ちに」を、合理的な範囲・相当の期間に改めます。
- 独立事業者としての責任の範囲は、限定されているか。「全ての責任」を、受注者の責めに帰すべき事由と管理下の技術者に関するものに限ります。
- 管轄は、どこの裁判所か。「裁判になればこちらの地元で」という圧力として働き得ますが、知的財産や契約不適合の条項より優先順位は低いことが多い論点です。
雇用から業務委託への切替えでは、仕事の中身が変わらないため、受注者も発注者も、契約書の文言の変化に気付きにくくなります。けれども、業務委託になれば、報酬の支払・賠償の責任・知的財産の帰属のルールは雇用の時とまったく違うものになります。雇用の時には会社が負っていた責任を、契約書の上で受注者が負うことになっていないかを、条項ごとに確かめることが大切です。
受注者に起きがちなこと
よくあるご質問
終了後も発注者の顧客と取引できない条項は、有効ですか?
期間・対象・地域が広すぎると、公序良俗に反して無効とされるおそれがあります。受注者の側では、期間を区切る、対象を発注者の事業と直接競合する企業や発注者から紹介された顧客に限る、自分で開拓した顧客や契約の前からの取引先を除く、といった範囲を絞る修正をお願いします。
副業先の仕事と本業が競合するときは、どう書けばよいですか?
削除が理想ですが、難しければ、契約期間中に限る、業種・地域を限定する、継続中の取引先を除く、事前の通知で対象外にする、という順に次善策を検討します。本業の副業の許可は、正式に取得して書面で保存しておきます。
再委託禁止だと、アシスタントも使えませんか?
全面禁止の書き方だと、補助者に手伝ってもらうことも違反と言われかねません。主要な部分だけ事前の承諾制にし、軽微な補助業務は事前の通知で足りる、再委託先に同等の守秘義務を課す、と定めるよう提案します。
元請や現場の人から直接指示されたら、従わなければなりませんか?
契約の相手方以外からの指示に従う義務はないのが原則です。受注者の側で書くときは、指示は発注者が指定した担当者からに限り、第三者からの直接の指示には従う義務も結果の責任も負わない、緊急時は合理的な範囲で対応して事後に報告する、と定めておきます。
会社員から業務委託に切り替えるとき、契約書で見るところは?
独立事業者として「全ての責任」を負う条項、何時でも報告を求められる条項、発注者の諸規定の遵守、事務所・機器の貸与の有償・無償、知的財産の移転、賠償の上限です。雇用の時の感覚のまま残った文言を、業務委託の実態に合わせて直します。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への法律の適用は、当事者の属性や取引の内容によって異なることがあります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が受注者(業務を請ける側)の立場で作成・レビューしてきた業務委託契約書、基本契約・個別契約、秘密保持契約書、誓約書、先方へ送る修正のお願いの文案などを、個別の依頼者・相手方が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月17日)。参考: e-Gov法令検索 / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会) / 法人番号公表サイト(国税庁)