このページの要点
- 発注者だけの解約権は、双方に同じ予告期間の解約権を置き、予告期間中の稼働と終了日までの業務を精算する形にする。
- 「甲が判断したとき」の解除は、客観的な事由・書面の催告・是正の期間・重大な違反に限る形に改める。
- 途中で終わったときは履行の割合で精算し、直前のキャンセルは時期ごとに報酬の割合を決めておく。
- 受注者から解除するときは根拠を確かめる。準委任なら民法651条1項。請負の注文者の解除権(641条)は受注者の根拠にならない。
最初に押さえること:解除の条は「誰が・何を理由に・いつ・いくら精算して」で読む
受注者にとって、契約の終わり方は収入の見通しに直結します。月額の仕事が突然打ち切られる、作業の途中で解除されて途中までの報酬が払われない、予定日の直前にキャンセルされて確保していた日程が無駄になる。受注者の側でレビューした契約書の解除の条項には、こうした場面を受注者の負担のまま放置する書き方が多く見られました。
事務所は、解約・解除の条項を、次の4つの問いで読んでいます。
- 誰が終わらせることができるのか(発注者だけか、双方か)。
- 何を理由に終わらせることができるのか(理由を問わないのか、客観的な違反に限るのか、発注者の判断で足りるのか)。
- いつ終わるのか(予告の期間、催告と是正の機会の有無)。
- いくら精算して終わるのか(途中までの報酬、費用、確保した日程の補償)。
このページでは、受け取った解除の条項を5つの類型に分けて直し方を示し、そのうえで、途中で終わったときの精算と関係を清算する書面、直前のキャンセル、長期の参画や再委託での終了、受注者の側から契約を終わらせるときの根拠と手続を紹介します。フリーランス法の30日前の予告はフリーランス法・取適法、途中の報酬の算定の仕方は報酬と支払条件のページもあわせてご覧ください。
受け取った解除の条項の5つの類型と、その直し方
受け取った解除の条項の類型
| 類型 | 受け取った書き方の例 | 受注者に起きること |
|---|---|---|
| 発注者だけの任意の解約 | 甲は、理由の如何を問わず、何らの責任を負わずにいつでも解約できる/1か月前の通知で理由を問わず解約できる | 受注者の側には同じ権利がなく、予告の期間中の稼働や準備の費用も精算されない |
| 主観的な解除 | 乙が適切に遂行できる見込みがないと甲が認めたとき/業務未履行の恐れがあるとき | 客観的な違反がなくても、発注者の判断だけで解除される |
| 無催告解除の長い列挙 | 15項目以上の無催告解除の事由と「民法第541条但書は適用しない」 | 軽微な不履行でも、是正の機会なく解除される |
| 「何ら請求できない」 | 解除された場合、乙は名目の如何を問わず何ら請求できない | 作業済みの分の報酬も請求できないと主張される |
| 解約に賠償が付く | 解約しようとする当事者は、相手方に損害を賠償する場合がある | 賠償の負担を恐れて、事実上解約できない |
第3の類型の「民法第541条但書は適用しない」とは、催告による解除の例外を外すという意味です。民法では、相当の期間を定めて催告しても履行がないときは解除できますが、その期間を過ぎた時の不履行が契約と取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、解除できません(民法541条)。この但書を外すと、軽微な不履行でも解除できることになります。
5つの類型は、単独でも受注者に不利ですが、組み合わさると影響が大きくなります。発注者の判断で即時に解除でき、解除されたら何も請求できない、という組合せは、在宅で成果物を納める方の約款に実際に見られたものです(読む順番)。
受け取った条文の直し方 解除の条項の類型ごとの修正
発注者だけの任意の解約
理由解約の自由を対等にし、終わるまでの分は払われることを確保します。
主観的な解除
理由「甲が認めたとき」を、第三者が見ても判断できる事由に置き換えます。
無催告解除の長い列挙
理由但書の排除を残すなら、軽微な不履行を除く一文を条文の中に書き戻します。
「何ら請求できない」
理由既に履行した部分の報酬を請求する権利は、解除によって当然に消えるものではありません。
解約に賠償が付く
理由準委任はもともと各当事者がいつでも解除でき(民法651条1項)、この契約も30日前の通知で解約できる作りでした。賠償が付くと事実上解約できず、通常の損害賠償の規定とも二重になります。
主観的な解除の例は、ほかにもありました。キャリア面談を受託する契約では「業務未履行の恐れ」「支配権の変更」が解除の事由に並んでいました。「恐れ」のような言葉は範囲が広く、発注者の判断に委ねられています。事務所は、客観的な事実に置き換えるか、催告と是正の機会を置くよう提案しました。
発注者だけの任意の解約の条項も、ほかの契約に見られました。クリエイティブ支援の月額契約は「1か月前の通知で理由を問わず」、申請支援の事業の基本契約は「30日前の通知で賠償は不要」という書き方です。申請支援の事業の案件では、受注者の側から、解約の時点で確保していた工数に相当する額の精算まで求める提案をし、やり取りの後の版では「協議の上精算する」という形で精算の定めが入りました。予告の期間は、6か月以上続く取引ならフリーランス法の30日前の予告と合わせる必要があり、「1か月前」の書き方は、2月をはさむと30日に満たないことがある点にも注意します。
解除の条項がそもそもない契約もあります。技術製品の設計支援を月額で受ける方の契約がそうでした。条項がなければ民法の規定によることになりますが、受注者の側から見ると、どの時点で、何を精算して終われるのかが読めません。修正版では、双方が30日前の書面の通知で中途解約でき、実施済みの業務の委託料と事前に承認された経費を精算する、と定めました。
途中で終わったときの精算
途中で契約が終わったときの報酬は、民法の初期設定から確かめておくと、契約書の書き方の意味が分かります。準委任では、委任が履行の途中で終了したとき、受任者は既にした履行の割合に応じて報酬を請求できます(民法648条3項2号)。請負でも、完成の前に解除されたからといって報酬がゼロになるとは限りません。それまでに仕上げた部分が切り分けられ、その部分で注文者が利益を得ているなら、その部分は完成したものと扱われ、利益の割合に応じた報酬を請求できます(民法634条2号)。成果に対して報酬を払う約束の委任にも、この634条が準用されます(民法648条の2第2項)。
契約書では、この初期設定を、受注者にとって計算できる形に具体化します。EC運営会社から受託する方の契約、適性診断と面談支援のパッケージの契約、雇用からの切替えの基本契約には、解除のときの精算の定めがありませんでした。事務所は、「契約終了日までに実施した業務については通常どおり精算する」こと、進捗の割合による精算を定めることを提案しました。
事業会社から商品企画を受けた方の契約には、発注者が業務を一方的に中断できる条項と、発注者がいつでも解除でき実費以外は請求できない条項がありました。その後の版では、中断したときは実施済みの業務を日割り又は出来高で支払い、再開の条件が決まらなければ契約を終了して中断の時点までの対価を払う、と改められました。発注者の解除は「正当な理由に基づいて」「契約期間の相当部分が経過した後に限る」とし、精算は費用と準備の費用(委託料を上限)とする形になっています。
団体から広報物のデザインを継続的に受ける方のマスター契約では、終了の予告を3か月前の書面の通知とし、制作の途中で終わる場合は、進捗の分の報酬(マイルストーン又は実作業の割合)と既に発生した実費を、請求書と作業の記録で精算する、と定めました。途中の成果物を発注者が使う場合は、許諾の条件と報酬を別途協議します。途中で終わったからといって、途中の成果物を無償で使ってよいことにはなりません。
条文例成果物型の個別業務を発注者が取りやめるとき(受注者の側の書式の例)
1甲は、乙の責めに帰すべき事由がある場合、又は乙の同意がある場合に限り、成果物の作成を目的とする個別業務を取りやめることができる。
2前項により個別業務が取りやめられたときは、甲は乙に対し、取りやめの時点までの履行の割合に応じた報酬、乙が既に支出した費用及び乙に生じた損害を支払う。
3前項の損害の額は、当該個別業務の報酬の額から、同項の履行の割合に応じた報酬の額と、乙が取りやめにより支出を免れた費用の額を差し引いた額を上限とする。
オンライン講座の事業者の販売導線の構築を受ける方が自分で用意した契約書の考え方です。第3項の上限は、完成していれば得られた報酬を超えないように損害を計算する方法です。
関係を清算する書面:解除通知書とデータの消去・破棄の証明書
締結の直後に、受注者の側から契約を終えることもあります。個人の動画編集者の方が、素材サイトを運営する会社との契約を締結の約1週間後に解除した案件では、受注者の名義の解除通知書と、データの消去・破棄の証明書をセットにして、関係を清算する構成をとりました。
この組み立ての考え方は、受注者が報酬の請求権を放棄する代わりに、追加の納品・修正への対応・再利用の許諾その他の義務を負わないことの確認を求めて、関係を清算するというものです。データの消去・破棄の証明書では、消去の対象を、相手方から受け取った原素材、作業の過程で生じた派生データ、関連するデータの3層に分けて定義し、消去の方法を具体的に書き、第三者に提供していないことを保証し、再利用しないことを誓約しました。
消去の証明書の組み立ては、受け取った秘密保持契約の返還・消去の条項を読むときにも役立ちます(秘密保持・NDA)。
直前のキャンセルと、確保した日程
単発の作業を受ける受注者にとって、最も痛いのは予定日の直前のキャンセルです。多層の下請の二次受けとして店舗の照明機材の更新と設定を2日間で受けた方の案件では、受注者の側の対案で、発注者が中途で解約する場合に支払うものを次のように並べました。
多層の下請の対案での、発注者の中途解約の精算
- 履行済みの報酬解約の時点までに実施した作業の報酬。
- 既に発生した実費交通の手配、資材の準備など、既に支出した費用。
- 確保したリソースの合理的な費用確保した人員・日程など、他の仕事を断って確保したリソースの合理的な費用。
- 逸失利益報酬の額から、未履行の部分の費用を差し引いた額を基準とする。
そのうえで、実施予定日の7日前以降の解約・キャンセル・日程の変更は、理由を問わず報酬の全額を支払うとしました。発注者の支払の遅延や違反が是正されない場合は、受注者の側から解除できる定めも置いています。
請負の作りの契約では、注文者は、仕事が完成しない間はいつでも、損害を賠償して契約を解除できます(民法641条)。これは注文者(発注者)の側の権利で、受注者の側から解除する根拠にはなりません。この規定のもとでも、注文者が賠償する損害には、受注者が得られたはずの利益が含まれ得ます。対案の4つの項目は、この損害の中身を具体的に並べ、直前のキャンセルについては一律の金額で決めておくことで、損害の立証の手間を省いたものです。
直前のキャンセルの定めは、日程を押さえる業務(設置・撮影・研修・イベントなど)では特に大切です。受注者は、その日のために他の依頼を断っています。キャンセルの時期ごとの支払の割合を決めておけば、発注者にとっても、いつまでに決めればいくらで済むかが分かり、早めの判断を促すことにもなります。
長期の参画・元請に連動する終了・契約の更新
製造業の新しい拠点の立上げに、3つのフェーズで概ね5年参画する専門家のために作成したと見られる基本合意書と個別の業務委託契約では、長期の参画ならではの終わり方を定めていました。発注者の都合による中止・縮小・参画の条件の実質的な変更は3か月前に通知すること、方針や体制の重大な変更があった場合や合理的な参画の条件が示されない場合に参画を終えられること、参画が終わるときに受注者が合理的な終了補償を請求できることです。補償の額は、参画の期間、予定していた期間、報酬の水準、稼働の割合、貢献、確保していたリソース、他の案件への影響を考慮して決めます。
この書類では、発注者に次のフェーズの個別契約を結ぶ義務を課すものではないことを、各所で繰り返し確認していました。長期の参画で受注者を守る定めを置くと、発注者は「将来まで縛られる」と警戒します。次の契約を結ぶかどうかは自由だと明示することで、終わり方の定めを受け入れてもらいやすくしています。
受けた仕事が、発注者がさらに上の元請から受けた仕事の再委託である場合は、元請との契約に連動して終わる条項に注意します。申請支援の事業を営む方が、研究機関から受託した業務を再委託した契約では、元請との契約が終われば再委託の契約も当然に終了し、催告なしに解除できる、と定めたうえで、終了の時点までに適切に行った業務の報酬は支払うとしていました。再委託で受ける側は、元請に連動する終了の条項があるか、その場合に既に履行した分の精算があるかを見ておきます。フリーランス法の30日前の予告も、元の委託の契約が解除されて再委託の業務の大部分が不要になった場合などは、予告が不要とされています(同法の厚生労働省関係の施行規則4条2号)。
契約期間と更新の定め方
| 定め方 | 受注者から見た点 | 見られた契約 |
|---|---|---|
| 短期で更新の記載なし | 期間が終わると契約も終わり、続けるかどうかが分からない | 育児中の方の3か月の時給制の契約(満了の30日前までに更新を協議する一文を提案) |
| 都度協議で更新 | 空白の期間や再交渉の不確実性が残る | プロダクト開発の月額契約(30日前までに終了の通知がなければ同条件で自動更新する形を提案) |
| 1か月更新・満了1か月前の通知 | 締結の直後に通知の期限が来る構造と見られる | 情報セキュリティ業務の契約 |
| 1年の自動更新 | 続くほどフリーランス法の保護が広がる一方、やめるときの予告の期限を確かめる | クリエイティブ支援の月額契約 |
プロダクト開発の月額契約で自動更新を提案したときは、発注者の側の利点も併記しました。人員が抜けるリスクが下がり、更新のたびの手続の負担も軽くなる、という点です。更新の定めは受注者だけの利益ではないと示すと、提案が通りやすくなります。
受注者の側から終わらせるときの根拠と手続
受注者の側から契約を終わらせたい場面もあります。そのときは、まず解除の根拠を確かめます。契約に解約の定めがあればその手続により、定めがなければ、契約の性質に応じた民法の規定を確かめます。準委任であれば、各当事者はいつでも解除でき(民法651条1項)、相手方に不利な時期の解除などの場合に損害を賠償する(同条2項)という枠組みになります。請負の注文者の解除権(民法641条)は発注者の側の権利なので、受注者が解除する根拠にはなりません。
受注者が自分で用意した構築代行の契約書では、受注者の側の事情による終わり方も定めています。解約は「解約したい月の末日の30日前までに通知し、その月末で終了する」形にして、月の途中で終わる日割りの問題が生じないようにしました。民法651条1項による解除をしない合意を置いて、解約の手続をこの定めに一本化しています。また、受注者の疾病・出産・介護などによる業務の停止や解約を定め、その場合は賠償を要しないとしました。
確かめる問い 受注者の側から終わらせるとき
- 解除の根拠は、契約のどの条項と、民法のどの規定か。準委任なら民法651条1項、契約に解約の定めがあればその手続によります。請負の注文者の解除権は受注者の根拠になりません。
- 相手方に不利な時期の解除にならないか。不利な時期の解除は、やむを得ない事由がない限り損害の賠償が問題になります(民法651条2項)。
- 報酬の請求をどうするか。請求するなら履行の割合で算定し、放棄するなら引換えに何の義務を負わないかを確認します。
- 受け取ったデータをどう消去し、どう証明するか。原素材・派生データ・関連データの範囲と、消去の方法を書きます。
- 清算のために交わす書面に、受注者が自ら負う賠償の約束が入っていないか。合意書・確認書などで関係を清算するときは、受注者の側が上限なく損害を賠償する文言が入っていないかを、署名の前に確かめます。
受注者に起きがちなこと
よくあるご質問
発注者だけがいつでも解約できる条項は、直せますか?
双方に同じ予告期間の解約権を置き、予告期間中の稼働分の支払と、終了日までの業務の委託料・合理的な費用の精算を定めるよう修正をお願いします。準委任ではもともと各当事者がいつでも解除できるので、対等にすることは受け入れられやすい修正です。
「甲が不適切と判断したとき」に解除できる条項は、受け入れてよいですか?
客観的な違反がなくても発注者の判断で解除される書き方です。客観的かつ合理的な理由がある場合に限る、書面で催告し是正の期間(原則10営業日以上など)を置く、重大な違反に限る、といった修正を検討します。
解除されたら、途中までの報酬は請求できますか?
準委任なら既にした履行の割合に応じて(民法648条3項)、請負でも可分な部分で注文者が利益を受けるならその割合に応じて(民法634条)請求できるのが原則です。「何ら請求できない」と書かれていたら、履行済みの部分を精算する義務を明記するよう求めます。
直前のキャンセルの報酬は、どう決めればよいですか?
実施予定日の一定期間前(事務所の書類では7日前)以降のキャンセルや日程の変更は、理由を問わず報酬の全額とし、それより前の解約は履行済みの報酬・実費・確保したリソースの費用などを精算する、と段階で決めておきます。
自分から契約をやめたいときは、どうすればよいですか?
まず契約の解約条項を確認し、予告期間と手続に従います。準委任であれば民法651条1項でいつでも解除できますが、相手方に不利な時期の解除は損害の賠償が問題になり得ます。報酬の扱いと、受け取ったデータの消去の方法も書面で整理します。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への法律の適用は、当事者の属性や取引の内容によって異なることがあります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が受注者(業務を請ける側)の立場で作成・レビューしてきた業務委託契約書、基本契約・個別契約、秘密保持契約書、誓約書、先方へ送る修正のお願いの文案などを、個別の依頼者・相手方が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月17日)。参考: e-Gov法令検索 / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会) / 法人番号公表サイト(国税庁)