このページの要点
- 完了の基準を客観的な状態にし、検査の期限と、期限までに具体的な理由の通知がなければ合格とみなす定めを置く。
- 不具合は仕様への不適合に限り、見え方などの主観的な評価や感覚的な要素は含まないと定める。
- 契約不適合は、通知の期間・起算点(検収完了日)・追完の方法の選び方・責任の上限を限定する。
- 特定業務委託事業者(従業員を使用するなどの要件に当たる発注者)は、検査をするかどうかを問わず、受領日から60日以内に支払期日を定める必要がある。
最初に押さえること:完了の基準・検査の期限・通知がないときの扱い
成果物を納める業務委託で、受注者が最も困るのは、納品したのに「まだ確認中です」と言われ続けて報酬の支払が始まらない状態です。受け取った契約書の検収の条を読むときは、次の3点を確かめます。
- 完了の基準:何をもって納品・完了とするかが、客観的に書かれているか。
- 検査の期限:発注者がいつまでに検査の結果を伝えるかが決まっているか。
- 通知がないときの扱い:期限までに通知がなければ合格とみなす(みなし検収)定めがあるか。
そのうえで、契約不適合(引き渡した成果物が種類・品質・数量について契約の内容に適合しないこと)の責任について、通知の期間・責任を負う範囲・追完の方法の選び方を確かめます。検収と契約不適合は、受注者にとって「いつ仕事が終わるか」を決める条項です。業務の範囲と修正の回数は業務範囲・修正回数、検収と支払の結び付きは報酬と支払条件のページで扱います。
検収の条項の意味を、民法の初期設定から確かめておきます。請負の報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に支払うのが原則です(民法633条)。契約書で「検収に合格した後に支払う」と定めると、支払の時期を引渡しより後ろに繰り下げる特約になります。検収が長引けば、その分だけ支払が遅れるのはこのためです。もっとも、フリーランス法が適用される取引では事情が変わります。発注者が特定業務委託事業者(従業員を使用するなどの要件に当たる発注者)であれば、検査をするかしないかにかかわらず、支払期日は、給付を受け取った日から数えて60日の範囲で、しかもできるだけ短く定めることが求められます(フリーランス法4条1項)。検収の期間を長く取っても、支払期日は受領した日から数えることになります(フリーランス法・取適法)。
受け取った検収の条に多い型
受注者の側でレビューした契約書の検収の条は、おおむね次のように分かれます。
受け取った検収の条と、その問題
| 受け取った定め | 問題 | 見られた契約 |
|---|---|---|
| 引渡しの完了は「甲が確認した時点」 | 確認の基準も期限もなく、発注者が確認しない限り完了しない | 商品企画・サンプル制作の3か月の契約 |
| 検収期間1か月、通知がない場合の定めなし | 1か月を過ぎても、合格か不合格か決まらない | クリエイティブ支援の月額契約 |
| 性能・見え方などで不合格にできる | 主観的な評価で何度でも不合格にされる | 多層の下請の機材設定の契約 |
| 検収期間40日、通知がなければ合格とみなす | 期間はやや長いが、無通知なら合格になるので致命的ではない | オンラインコーチングの契約 |
| 検収の基準の定めなし | 何をもって合格とするかが分からない | 広報物デザインのマスター契約 |
このうち、期間が長いこと自体は、みなし検収の定めがあれば大きな問題にはなりません。オンラインコーチングの契約の40日の検収期間について、事務所は「やや長いが、無通知なら合格とみなすので致命的ではない」と評価しました。反対に、期間が短くても、通知がないときの扱いが決まっていなければ、いつまでも終わりません。
修正をお願いしても、みなし検収が入らないこともあります。商品企画の契約では、10営業日の審査の期限に「連絡がなければ合格とみなす」を加える提案をしましたが、その後の版には入りませんでした。こうした場合でも、受注者にできることは残っています。審査の期限が来たら、結果を尋ねる連絡を記録に残る形で送ること、期限を過ぎても結果が出ないときは、それまでの経過をまとめて支払の時期の確認を求めることです。特定業務委託事業者との取引でフリーランス法が適用されるなら、支払期日は受領した日から60日以内に定められていなければならず、検収が終わらないことを理由に支払を先送りすることは認められません。みなし検収は、こうした確認の手間を最初から省くための条項だと考えると、修正をお願いする理由も説明しやすくなります。
受け取った条文の直し方 検収の期限とみなし検収
審査の期限
理由期限だけでは、期限を過ぎたときの扱いが決まりません。みなしの一文で、期限に意味が生まれます。
検収の基準と期限
理由基準と期限とみなしを、1つの条にまとめています。
1か月の検収
理由検収が終わらないと支払期日が来ない作りでは、検収の遅れがそのまま支払の遅れになります。
主観的な評価で不合格にされないために
多層の下請で店舗の照明機材の更新と設定を受けた方の案件では、一次受けの原案に、性能や見え方などを理由に不合格にできると読める定めがありました。照明は、明るさや色の感じ方が人によって違います。主観で不合格にされると、何度やり直しても終わりません。
事務所が作成した受注者の側の対案では、検収を次のように組み立てました。
機材設定の対案での、完了から保証までの流れ
- 完了の定義本件業務が一通り実施され、通常の使用が可能な状態になったこと。
- 完了の通知と検査完了の通知から3日以内に検査する。具体的な理由を付けた不具合の通知がなければ、合格とみなす。
- 「不具合」の範囲仕様に適合しないことをいい、性能・演出の内容など主観的な評価は含まない。次の版で「見え方その他の主観的評価又は感覚的要素」を追加。
- 修正乙の責めに帰すべき不具合に限り、1回だけ無償で修正する。即時に対応する義務は負わない。
- 検収の完了後検収の手続を経ていない事項について、後から異議を述べることはできない。
- 保証の期間検収完了日から7日間。機材の不良、第三者による設定の変更、電源・通信など外部の要因、甲の指示に起因するものは有償。
ポイントは、不具合の通知に「具体的な理由」を求めていることです。「なんとなく違う」という通知では、不合格の通知として扱われません。また、主観的な評価や感覚的な要素を不具合から外すことで、受注者がコントロールできない理由で終わらない状態を防いでいます。7日間という保証期間は、2日間の設置作業という短期の業務に合わせた数字です。業務の性質に合わせて、期間を決めることが大切です。
契約不適合の期間・追完の方法・起算点
請負の作りの契約では、成果物が契約の内容に適合しなければ、発注者は修補などの履行の追完、報酬の減額、損害の賠償、解除を求められます(民法559条で売買の規定を準用)。注文者が不適合を知った時から1年以内に通知しなければ、これらを求めることはできなくなります(民法637条1項)。契約書では、この期間や方法を当事者の合意で変えることができます。
在宅で成果物を納める方の約款では、契約不適合の期間が1年で、追完の方法を発注者が選べるとしたうえで、「民法第562条第1項ただし書は適用しない」と書かれていました。民法562条1項ただし書は、売主が、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法で追完できる、という定めです。これを外すと、受注者は、より負担の小さい方法で直せる場合でも、発注者が選んだ方法に従わなければなりません。事務所のレビューでは、無償の修正の回数の上限、減額は不適合の部分に相当する額とすること、仕様を確定した時点の明記、不適合の定義の限定、保守契約とは別であることの明示を提案しました。
このうち「仕様を確定した時点の明記」は、受注者にとって見落としやすい点です。仕様が確定する前に出された要望と、確定した後に出された要望とでは、意味が違います。確定した仕様と違うという指摘なら契約不適合の問題になりますが、確定した後に新しく出された要望は、仕様の変更であり、追加の作業として別に扱うべきものです。仕様がいつ確定したのかが記録に残っていないと、新しい要望まで「不適合だから無償で直せ」と言われかねません。仕様を確定した時点を、メールや議事録で残しておくことが、契約不適合の範囲を守ることにつながります。
受け取った条文の直し方 契約不適合の条
期間と救済の重なり
理由期間・方法・要件・金額のそれぞれに限定をかけています。
用語と起算点
理由業務開始日から数えると、開発が長引いた場合、検収の前に期間が過ぎてしまう可能性があります。期間の長さより、どこから数えるかが大切です。
負担の程度
理由負担の程度を問わない定めは、民法562条1項ただし書を外すよりさらに重い内容です。
期間と通知
理由知ってから長く黙っていられると、受注者は原因を確かめられなくなります。
クリエイティブ支援の月額契約では、通知の期限を6か月、修補は最大2回、修補の期間中の作業には報酬を加算する形を提案しました。期間を何か月にするかは、成果物の性質によって変わります。デザインや動画のように納品時に確認できる成果物は短く、システムのように使ってみて初めて分かる不具合がある成果物は、起算点を検収完了日にしたうえで、期間を相応に取ることが多くなります。
通知の形式も見ておきます。広報物デザインの修正版のように「書面での通知」と定める場合、メールやチャットでの指摘が通知に当たるのかが問題になり得ます。日常の連絡をチャットで行っている取引なら、通知の方法を「書面又は電磁的方法」として、どの手段で届いた指摘が期間内の通知に当たるのかを明確にしておくと、受注者の側でも期限の管理がしやすくなります。通知の期限と方法は、検収の条と契約不適合の条で同じ書き方にそろえておくのが基本です。
準委任の契約に「検収」があるとき
準委任の契約には、請負のような契約不適合責任の規定はありません。受注者が問われるのは、善良な管理者の注意を尽くして事務を処理したかどうか(民法644条)です。ところが、月額の準委任で開発を受ける契約に、成果物の完成義務・検収・契約不適合・危険負担という請負の条項が並んでいることがあります。
スタートアップのプロダクト開発を月額で受ける方の案件では、発注者の案に、成果物に関して完成義務を負うと書かれていました。受注者の側の対案では、完成義務を削り、検収・契約不適合・危険負担の各条を「請負契約の条項」として外し、納品は「甲が納品を必要と認める場合には協議のうえ仕様・形式・期日を定める」としました。その後、発注者が完成義務を戻した版には、「ただし、本契約は成果物の完成を目的とする請負契約ではなく」という但書を併記しています(読む順番)。
準委任の契約で成果物を納めること自体はよくあります。大切なのは、納品と検収の手続を置くとしても、それが完成の約束や契約不適合の責任を意味しないことを、契約書の中で確認しておくことです。
受注者の側の書式での書き方
受注者のために作成したと見られる動画制作の基本契約では、検収を次のように定めていました。
条文例受注者の側で書く検収の条(例)
1甲は、乙から成果物の提出を受けた日から7日以内に検収を行い、修正を要する箇所があるときは、合理的かつ具体的な修正の指示を乙に通知する。
2前項の期間内に合理的かつ具体的な修正の指示がないときは、成果物は検収に合格したものとみなす。
3甲は、成果物の一部について検収を行うことができる。
4検収が完了した日をもって成果物の納品日とし、検収の完了により、成果物は本契約の内容に適合するものと推定する。
第4項の推定は、検収を終えた後に不適合を主張する側に、その立証を求める意味があります。
オンライン講座の事業者の販売導線の構築を受ける方の契約書では、成果物がWeb上の設定であることに合わせて、納品の時点を「本番環境で公開・利用可能に設定し通知した時」と定義しました。発注者の承認待ちで反映を保留した場合は、所定の日に納品したものとみなします。検査は翌日から5日以内、契約不適合は納品時の属する月の翌々月末日までに通知されたものに限り、発注者の素材・指示、第三者による設定の変更、ツールの仕様の変更によるものは免責としています。
この「承認待ちで保留したら納品とみなす」という定めは、Webの設定や公開の作業で特に意味があります。受注者が作業を終えても、発注者が公開の承認を出さない限り納品にならない作りでは、検収も支払も始まりません。
動画制作の基本契約の「部分検収」も、受注者にとって意味の大きい定めです。シリーズものの動画や、複数の画面からなるシステムのように成果物が分かれている場合、全部がそろうまで検収しない作りでは、早く仕上がった部分の確認も支払も遅れます。部分ごとに検収できれば、確認の済んだ部分から順に完了させられます。検収の完了をもって契約への適合を推定するという定めとあわせて、受注者が「終わった」と言える時点を早く、はっきりさせる工夫です。
確かめる問い 検収の条を書く・直すとき
- 納品の時点は、受注者の行為で決まる書き方になっているか。発注者の確認や承認を待たないと納品にならない書き方では、終わりが発注者次第になります。
- 不合格の通知には、具体的な理由が必要か。理由を求めることで、主観的な不合格と、修正すべき点の特定を両立させます。
- 一部だけの検収はできるか。成果物が分かれている場合、全部がそろうまで検収しない作りでは、早く終わった部分の支払も遅れます。
- 検収後の不適合の主張に、期限と範囲の限定があるか。期限の起算点(引渡しか検収完了か)も確認します。
保証の期間と、外部の要因の扱い
検収が終わった後も一定の期間は不具合に無償で対応する、という保証の条を置く契約もあります。受注者の側で気を付けたいのは、保証の対象から外部の要因を外しておくことです。
機材設定の対案では、機材の不良、第三者による設定の変更、電源や通信など外部の要因、発注者の指示に起因するものは、保証期間内でも有償としました。Webシステムの開発を受ける方の案件で、依頼者から「外部の要因の責任の制限にヌケモレはないか」と質問されたときは、ヌケモレはないとしたうえで、第三者のサービスの障害や提供の終了による免責を加えるとなお良い、と回答しました。外部のツールやサービスに依存する成果物では、ツール側の仕様の変更で動かなくなることがあります。その対応まで無償の保証に含めるかどうかは、契約で決めておくべき事項です。
発注者が提供した素材や資料に起因する不具合も同じです。素材の権利の問題を含め、発注者の提供物の責任の分け方は権利侵害の保証のページで扱います。
受注者に起きがちなこと
よくあるご質問
検収の期限がない契約は、どう直せばよいですか?
納品から何日(営業日)以内に検査の結果を通知するかを定め、期限までに具体的な理由を付けた通知がなければ合格とみなす一文を入れてもらいます。期限とみなし検収はセットで意味を持ちます。
「甲が確認したら完了」と書かれていたら、どうすればよいですか?
確認の基準も期限もないと、発注者が確認しない限り完了しません。完了の定義を客観的な状態(通常の使用が可能な状態、本番環境で公開可能に設定し通知した時など)にし、検査の期限とみなし検収を加えるよう求めます。
見た目が気に入らないと言われたら、不具合になりますか?
契約の定め方によります。受注者の側では、不具合を仕様に適合しないことに限り、見え方などの主観的な評価や感覚的な要素は含まないと定めておくと、主観で不合格にされることを防げます。好みの調整は、修正の範囲や回数の問題として扱います。
契約不適合の期間は、何か月が目安ですか?
成果物の性質によって変わります。事務所の書類では、デザインなど納品時に確認しやすいものは納品から3か月、使ってみて分かる不具合があるものは検収完了日から起算して期間を取る、といった例があります。期間の長さとあわせて、どこから数えるかを確かめます。
みなし検収は、発注者に嫌がられませんか?
検査の期間を相応に取り、具体的な理由を付けた通知があれば不合格にできる形にすれば、発注者の検査の権利は損なわれません。発注者の側でも、検収の手続が明確になれば社内の処理が進めやすくなる、と説明すると受け入れられやすくなります。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への法律の適用は、当事者の属性や取引の内容によって異なることがあります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が受注者(業務を請ける側)の立場で作成・レビューしてきた業務委託契約書、基本契約・個別契約、秘密保持契約書、誓約書、先方へ送る修正のお願いの文案などを、個別の依頼者・相手方が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月17日)。参考: e-Gov法令検索 / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会) / 法人番号公表サイト(国税庁)