秘密保持・NDA:受け取る側の点検

守れない条項に署名すると、業務を進めるだけで違反の状態になります。受け取る側は「守り続けられるか」で読みます。

トップページ › 秘密保持・NDA:受け取る側の点検
受け取った資料のバックアップを取ることさえ、複製の全面禁止の条項のもとでは違反になり得ます。

このページの要点

  • 秘密情報の定義は明示型が分かりやすい。相手の事情を受け入れるなら、別の条項(実績の開示など)と交換する。
  • 複製・保存の場所・協力者への開示・報告の義務が、実際の業務で守れるかを確かめる。
  • 違反の責任は帰責事由がある場合の通常の損害に限り、従業員等は周知・教育・監督を怠ったときに限る。
  • 存続は終了から一定年数で区切り、営業秘密だけ二段構えにする。消去には法令上の保存とバックアップの例外を置く。

最初に押さえること:受け取る側は「守り続けられる条項か」で読む

業務委託の受注者は、発注者から秘密保持契約書(NDA)を受け取る立場になることがほとんどです。多くの秘密保持契約書は、情報を開示する側の利益を守る目的で作られているため、受け取る側の受注者から見ると、守り続けるのが難しい条項が並んでいることがあります。

受け取る側で秘密保持契約書を読むときは、条項が厳しいかどうかより、実際の業務の中で守り続けられるかを基準にします。守れない条項に署名すると、業務を進めるだけで違反の状態になり、違反を理由とする解除や賠償の根拠を相手方に与えてしまいます。事務所は、次の順番で点検しています。

  1. 秘密情報の範囲:何が秘密情報になるのか、明示の要件はあるか。
  2. 取扱いの義務:複製・利用目的・第三者への開示・報告の義務が、業務の実態に合っているか。
  3. 違反したときの責任:帰責事由・損害の範囲・従業員等の責任の範囲。
  4. 期間と後始末:存続の期間、返還・消去の方法と例外。
  5. 混ざり込んだ条項:知的財産の帰属、競業避止など、秘密保持とは別の約束が入っていないか。

このページでは、受注者の側でレビューした秘密保持契約書と業務委託契約書の秘密保持の条項から、受け取る側の点検の仕方を紹介します。秘密保持の違反の賠償の上限は損害賠償の上限、実績の公開との関係は知的財産のページでも扱っています。

秘密情報の範囲:広さと、明示の要件

秘密情報の定義には、大きく分けて、相手方から開示された情報を広く秘密情報とする包括型と、秘密である旨を明示した情報に限る明示型があります。受け取る側から見ると、明示型のほうが何を守ればよいかがはっきりします。ただし、明示型にこだわりすぎると、開示する側の理解を得にくいこともあります。

スタートアップのプロダクト開発を月額で受ける方の案件では、秘密情報の範囲をめぐって具体的なやり取りがありました。受注者の側は対象を絞る修正を提案しましたが、発注者からは、受注者が関わる業務はすべて事業の根幹に関わるもので、一つずつ秘密である旨を明示するのは現実的ではない、という反論がありました。そこで事務所は、次のような妥協案を示しました。

受け取った条文の直し方 秘密情報の定義の妥協案

定義

受け取った条文開示された一切の情報を秘密情報とする。(発注者の案)
修正の提案「秘匿性が高いことが合理的に認識できる情報、又は秘密である旨が明示された情報」を秘密情報とし、ソースコード等は明示がなくても秘密情報とみなす。

理由明示を要件にしつつ、明示がなくても秘密と分かる情報と、特に重要な類型を拾います。

交換の条件

受け取った条文実績の開示の定めなし。(同)
修正の提案定義の妥協と引換えに、甲の事前の承諾がある場合に限り、プロダクトの概要、開発した機能の概要、言語・フレームワーク・アーキテクチャ、チーム体制、技術的に工夫した点を開示できる枠を設ける。

理由相手の懸念を受け入れる代わりに、受注者にとって大切な実績の開示を確保しました。

この例のように、秘密情報の定義は、一方的に狭めるのではなく、相手の業務の実情を受け入れたうえで、別の条項で受注者の利益を確保する交換の材料にすることがあります。

口頭や画面の共有で開示された情報をどう扱うかも、定義の中で決めておきたい点です。明示型にするなら、口頭・映像で開示した情報は、開示の後一定の期間内に秘密である旨を特定して通知したものに限る、といった定めを置くのが一般的な書き方です。打合せで話題に出たことのすべてが秘密情報になる書き方では、受注者は何を守ればよいかが分かりません。

定義の除外事由(受領の時点で既に知っていた情報、公知の情報、独自に開発した情報など)の立証の方法にも目を配ります。除外事由の立証を「書面又は電磁的記録により」に限る書き方だと、受注者が以前から知っていたことを示す書面が残っていない場合に、除外を主張できなくなります。受注者の側では「合理的な証拠により」立証できる形にするよう提案します。対象を絞ることは、開示する側の利益にもつながります。不正競争防止法の営業秘密として保護されるには、秘密として管理されていることが要件の一つなので(同法2条6項)、何でも秘密情報とする書き方より、守るべき情報を特定して管理するほうが、開示する側は現実に保護を受けやすくなる、と説明できます。

複製・利用目的・報告の義務

講師の業務を受ける方がクライアントから受け取った秘密保持契約書では、秘密情報の複製を全面的に禁止していました。この書き方では、受け取った資料のバックアップを取ることも、講義の教材に加工することもできません。業務を進めること自体が違反の前提になる条項です。事務所のレビューでは、業務の遂行に必要な範囲の複製を認める形に緩めるよう提案しました。

同じ契約書では、漏えいが起きたときの報告の義務が受注者の側にだけ課されていました。秘密保持契約書の多くは、形式上は相互の義務になっていても、実際の条文を読むと片方の義務だけが重いことがあります。事務所は、報告の義務を双方の義務にするよう提案しました。受注者が発注者に開示する情報(受注者のノウハウ、価格、他の取引先の情報など)もあるからです。

取扱いの義務は、業務の実態に照らして読むことが大切です。多重の業務委託の構造で常駐していた個人のIT事業者の方は、業務提供先のサーバから私用の端末にデータを一時保存したことで、誓約書の提出を求められることになりました(損害賠償の上限)。作業の効率のために手元に保存することは、受注者にとっては自然な行動でも、契約の上では目的外の複製や持出しに当たり得ます。私用の端末に保存してよいのか、保存したデータをいつ消すのかは、契約書で決まっていなければ、作業を始める前に確かめておくべき事項です。

取扱いの義務を業務の実態と照らし合わせる

  • 業務に必要な複製(バックアップ、作業用のコピー、教材への加工)が認められているか
  • 私用の端末・クラウドに保存してよいか、保存の場所と期間の定めはあるか
  • 協力者や外注先に開示してよいか、その場合の手続(事前の承諾か、通知か)は何か
  • 漏えいの報告の義務は、双方の義務になっているか
  • 利用の目的が、実際に受ける業務の範囲と一致しているか

協力者や外注先を使う受注者は、再委託の条項と第三者への開示の条項の関係も確かめます。業務委託契約で再委託が認められていても、秘密保持の条項で第三者への開示に開示者の事前の承諾が必要とされていると、再委託先に資料を渡せず、再委託の条項が意味を持ちません。再委託先に同等の秘密保持の義務を課すことを条件に、秘密保持の条項にかかわらず必要な範囲で開示できる、と両者をつないでおきます。また、再委託先に義務を「遵守させる義務」と書くと、再委託先が違反した結果について受注者が責任を負うと読まれます。「遵守させるために必要な措置を講ずる義務」とすれば、受注者が尽くすべきことが明確になります。

違反したときの責任:帰責事由・損害の範囲・従業員等

技術製品の設計支援の秘密保持契約書の原文には、受注者が故意又は過失のないことを証明した場合に限り責任を免れる、という定めがありました。一見すると過失責任の原則どおりに見えますが、受注者の側が自分に過失がないことを証明しなければならないので、軽い過失があれば全面的に責任を負うことになります。

受け取る側で違反の責任の条項を直すときは、民法の原則に沿った言葉に置き換えるのが分かりやすい方法です。責任を負うのは自己の責めに帰すべき事由がある場合であること(民法415条1項ただし書)、賠償するのは違反によって相手方に現実に生じた通常の損害であること(民法416条1項)です。違反があったときの措置についても、相手方が指示する措置を何でも講じる、という白紙委任の書き方ではなく、相手方と協議のうえ、被害の拡大の防止その他合理的に必要な措置を速やかに講じる、という形にすると、受注者にとって費用の見通しが立ちます。費用の見通しが立つほうが、事故を隠さずに報告する動機にもなる、というのが、開示する側への説明の材料です。

受注者の従業員や協力者、さらに退職した人の漏えいまで責任を負わせる条項もあります。退職した人の行動は受注者には支配できませんし、使用者の責任(民法715条1項)も、被用者が「事業の執行について」第三者に加えた損害に限られています。受注者の側では、従業員等の違反については、周知・教育・監督を怠ったときに責任を負う形に限定するよう提案します。

条文例違反の責任を民法の原則に沿って書く(例)

1受領者は、自己の責めに帰すべき事由により本契約に違反し、開示者に損害を与えたときは、当該違反により開示者に現実に生じた通常の損害を賠償する。

2受領者は、秘密情報の漏えいを知ったときは、速やかに開示者に通知し、開示者と協議のうえ、被害の拡大の防止その他合理的に必要な措置を講ずる。

3受領者は、秘密情報を開示した自己の従業員又は協力者が本契約に定める義務に違反した場合、当該従業員又は協力者に対する周知、教育又は監督を怠ったときに限り、前項及び第1項の責任を負う。

相互の契約にする場合は、「受領者」「開示者」を当事者の双方に当てはめる書き方にします。

存続期間:「永久」と自動更新を区切る

情報セキュリティ業務の受託者の方が受け取った秘密保持の条項には、秘密保持の義務は「永久に」存続する、と書かれていました。期限のない義務は、受注者にとって、いつまでも違反の可能性を抱え続けることを意味します。また、有効期間を短く定めながら自動更新の回数に上限がなく、存続条項にも終期がない組合せで、事実上は永久になっている秘密保持契約書もありました。

事務所の修正案では、二段構えの書き方をとっています。秘密保持の義務は、契約の終了又は解除の日から一定の年数(例:5年)を経過した時に消滅するとしたうえで、不正競争防止法の営業秘密(秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの。同法2条6項)に当たる情報は、営業秘密でなくなるまで義務が続く、という形です。開示する側から見ても、本当に守るべき営業秘密は期限なく守られるので、受け入れやすい書き方です。年数の交渉の幅としては、3年から10年を目安にしました。

一方で、受注者に有利な期間の定めは、こちらから触れないのが基本です。講師の業務の秘密保持契約書では、存続期間が1年と短く、受注者に有利だったため、修正のお願いには含めず、先方から修正を求められたときに備えておく扱いにしました。副業エンジニアの方の契約の秘密保持の条項(相互の義務、終了後1年、例外あり)も、変更しない条項として残しています。

返還・消去と、法令上の保存

契約が終わったときの返還の条項も、受け取る側で読み直す必要があります。「秘密情報を返還する」とだけ書かれた条項は、紙の資料を前提にした書き方で、電子データは「返還」できません。受注者の側の修正では、返還・破棄・消去のどれによるかを開示者の指示で選べるようにし、時期は業務の終了などで不要になった場合、期限は30日以内、と具体的にするのが一般的です。

あわせて入れておきたいのが、消去の例外です。技術製品の設計支援の秘密保持契約書、商品企画の契約、雇用からの切替えの基本契約のいずれでも、法令上の保存義務がある記録と、自動的に作られるバックアップは、消去の義務の例外とし、保持している間も秘密保持の義務を続ける形にしました。帳簿書類や電子取引のデータのように、法令で一定の期間の保存が求められる記録まで消去すると、受注者が別の法令の義務に違反することになりかねません。

消去したことを証明する書面を求められることもあります。素材サイトを運営する会社との契約を受注者の側から解除した動画編集者の方の案件では、事務所がデータの消去・破棄の証明書を作成しました。消去の対象を、受け取った原素材、作業の過程で生じた派生データ、関連するデータの3層に分けて定義し、消去の方法を具体的に書き、第三者に提供していないことを保証し、再利用しないことを誓約する構成です(解約・解除と精算)。証明書は、どこまでを消したのかが具体的であるほど、後から「まだ持っているのではないか」と疑われる余地が小さくなります。

受け取った条文の直し方 返還・消去の条項

方法

受け取った条文秘密情報を返還する。(原案)
修正の提案開示者の指示に従い、返還、破棄又は消去のいずれかを行う。

理由電子データは返還できないため、方法を選べる形にします。

時期と期限

受け取った条文契約の終了時に直ちに。(原案)
修正の提案業務の終了その他の理由により不要となった場合、30日以内に。

理由「直ちに」は、業務の引継ぎの期間と衝突することがあります。

例外

受け取った条文定めなし。(原案)
修正の提案法令上の保存義務がある記録と自動的なバックアップは保持でき、保持している間は秘密保持の義務を続ける。

理由別の法令の保存義務との衝突を避けます。

報告

受け取った条文消去の証明書を提出する。(原案)
修正の提案開示者から請求があったときに、消去した旨を報告する。

理由毎回の証明書の提出を義務にせず、必要なときに求められる形にします。

秘密保持契約書に入り込んだ別の約束と、開示の例外

秘密保持契約書には、秘密保持とは別の約束が入り込んでいることがあります。情報セキュリティ業務の受託者の方の秘密保持の条項には、競業避止が含まれていました。秘密保持契約書に競業避止を入れることは通常はなく、入れるとしても、期間・業種・地域を限定するべきだと指摘しました(競業・再委託・独立性)。

知的財産の帰属が入り込んでいることもあります。秘密情報に基づいて作成した成果の権利を開示者に帰属させる、あるいは「協議する」とする定めです。けれども、秘密保持契約書は、権利の帰属を決めるための契約ではありません。受注者の側では、秘密保持契約書は秘密情報について何らの権利の許諾や移転をするものではないこと、成果物の帰属と利用の条件は別途書面又は電磁的記録で定めることを明記し、あわせて、業務を通じて身に付けた一般的な知識・技能・経験で記憶にとどまるものを他の業務に用いることは違反にならない、とする定めを置くよう提案しています。

開示の例外も確かめます。法令に基づいて開示を求められた場合のほか、守秘義務を負う専門家に相談のために開示する場合を例外として明記しておくと、契約の内容について助言を求めることが違反と言われずに済みます。フリーランス法の申出や公益通報に必要な範囲の開示を例外にしておく意味は、フリーランス法・取適法のページで説明しました。

副業で受ける方は、契約を結んだ事実そのものが秘密情報に含まれていないかも確かめます。含まれていると、本業の勤務先に副業の申請や届出をすることができなくなります。このような条項を見つけたら、勤務先への申請や届出に必要な範囲の開示を例外として加えてもらうよう提案しています。

受注者に起きがちなこと

よくあるご質問

NDAの「一切の情報」は、直すべきですか?

受け取る側にとっては、何を守ればよいかが分からない書き方です。秘密である旨を明示した情報に限る形が分かりやすいですが、相手方が難色を示す場合は、秘匿性が高いと合理的に認識できる情報を加え、特に重要な類型(ソースコード等)は明示がなくても秘密とみなす、といった妥協案も考えられます。

秘密保持の義務が、いつまでも続く契約は問題ですか?

期限のない義務は、いつまでも違反の可能性を抱え続けることになります。終了から一定の年数で消滅させ、不正競争防止法の営業秘密に当たる情報だけは営業秘密でなくなるまで続く、という二段構えにすると、開示する側にも受け入れられやすくなります。

元従業員の漏えいまで、責任を負うのですか?

退職した人の行動は受注者には支配できず、使用者の責任も「事業の執行について」の損害に限られます。従業員等の違反については、周知・教育・監督を怠ったときに限り責任を負う、という形に限定するよう提案します。

データはどう返せばよいですか?

電子データは返還できないため、返還・破棄・消去のどれによるかを開示者の指示で選べる形にし、期限(例:不要になってから30日以内)を決めます。法令上の保存義務がある記録と自動的なバックアップは例外とし、保持している間は秘密保持を続けると定めます。

協力者や外注先に資料を渡せない秘密保持契約は、どう直せばよいですか?

再委託が認められていても、第三者への開示に開示者の事前の承諾が必要とされていると、協力者に資料を渡せません。再委託先に同等の秘密保持の義務を課すことを条件に必要な範囲で開示できると定め、再委託先については「遵守させるために必要な措置を講ずる義務」を負う形にします。

あわせて読みたい、関連する別のガイド

あわせて読みたいページ

本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への法律の適用は、当事者の属性や取引の内容によって異なることがあります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が受注者(業務を請ける側)の立場で作成・レビューしてきた業務委託契約書、基本契約・個別契約、秘密保持契約書、誓約書、先方へ送る修正のお願いの文案などを、個別の依頼者・相手方が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月17日)。参考: e-Gov法令検索 / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会) / 法人番号公表サイト(国税庁)

受け取った業務委託契約書の確認でお困りの方は、お気軽にご相談ください。

公式LINEで無料相談する
アトラス行政書士法人 公式LINEの友だち追加QRコード
  1. 公式LINEを友だち追加
  2. 「フリーランス受注者の契約書ガイドを見た」とメッセージを送信
  3. ご相談内容を確認し、LINEでご返信します(24時間・土日祝対応)

相談無料です。料金が発生するのは、お申込みいただいた書類の作成・点検だけです。

LINEで友だち追加して無料相談する

ご依頼・納品の流れを見る