このページの要点
- 「保証する」は結果の約束と読まれやすい。「知る限りにおいて」と、故意又は過失がある場合に限る責任に分ける。
- 発注者の指示・提供資料・技術情報が原因の侵害は免責。発注者は受注者の承諾なく第三者と和解しない。
- 保証の責任にも賠償の上限を適用し、存続条項で期限なく残らないかを確かめる。
- 提供素材は発注者が権利処理を表明保証し、受注者に調査の義務がないと定める。直せない契約は運用とメールの確認で守る。
最初に押さえること:保証の条項は「過失」「範囲」「期間」「金額」に分けて直す
業務委託契約書には、受注者が「成果物が第三者の知的財産権その他の権利を侵害しないことを保証する」と定める条項がよく入っています。受け取った受注者の多くは、「他人の作品を盗むつもりはないから大丈夫」と考えて読み流します。けれども、この条項は、受注者に落ち度がない場合や、発注者の指示が原因の場合にまで責任を負わせる書き方になっていることが多いのです。
事務所は、保証の条項を一つの塊として受け入れるか拒むかではなく、次の4つの要素に分けて直すよう提案しています。
- 過失:受注者に故意・過失がない場合にも責任を負うのか。
- 範囲:発注者の指示や発注者が提供した素材が原因の場合、発注者と第三者だけの紛争の場合にも負うのか。
- 期間:契約が終わった後、いつまで責任が残るのか。
- 金額:負担する額に、上限がかかるのか。
このページでは、受け取った保証の条項の問題点と、4つの要素ごとの直し方、発注者が提供した素材の扱い、オープンソースや素材サイトの扱いを紹介します。賠償の上限そのものは損害賠償の上限、知的財産の帰属は知的財産のページで扱います。
「保証する」と書くと何が変わるか
民法では、債務の不履行による損害の賠償は、その不履行が契約その他の債務の発生原因と取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、請求できません(民法415条1項ただし書)。つまり、通常の契約違反の責任は、受注者に帰責事由があることが前提です。
ところが、「侵害しないことを保証する」という形で書くと、受注者は「侵害がない状態」という結果を約束したことになり、過失がなくても、侵害があれば責任を負うと読まれやすくなります。システム開発会社から時給制で受ける副業エンジニアの方の契約の保証の条項について、事務所のレビューは、保証の形なので過失がなくても責任を負うことになり、民法415条1項ただし書の免責が外れる、と説明しました。
特許権については、さらに事情が重くなります。特許権者は業として特許発明を実施する権利を専有し(特許法68条)、他人の特許権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があったものと推定されます(同法103条)。ソフトウェアの開発では、自分で考えて書いた処理が、知らないうちに他人の特許の範囲に入っていることがあり得ます。保証の条項は、こうした受注者の努力ではどうにもならない領域まで、受注者の責任にしてしまいます。
このエンジニアの方の契約の保証の条項には、ほかにも問題がありました。発注者と第三者だけの紛争や、発注者の指示や提供した資料が原因の紛争の費用まで受注者が負担する作りで、しかも契約が終わった後も効力が続く条項(存続条項)の対象になっていたため、期限なく責任が残ります。事務所は、これらを「無過失・無限定・無期限」の保証と整理し、要素ごとに直す修正を提案しました。
保証の条項が受注者の責任を広げる道筋
- 「保証する」の形結果の約束と読まれ、過失がなくても責任を負う(民法415条1項ただし書の免責が外れる)。
- 範囲の限定がない発注者の指示・提供資料が原因の紛争、発注者と第三者だけの紛争も対象になる。
- 費用の全額賠償金だけでなく、弁護士費用を含む一切の費用が対象になる。
- 上限の対象外賠償の上限の条項との関係が書かれていないか、上限の例外とされている。
- 存続条項契約の終了後も、期限なく責任が残る。
4つの要素ごとの直し方
受注者の側でレビューした契約書から、4つの要素ごとの直し方を集めると、次のようになります。
受け取った条文の直し方 保証の条項の要素ごとの修正
過失
理由結果の約束を、知っている範囲の表明と、帰責事由がある場合の責任に分けます。
範囲
理由原因が発注者の側にある紛争まで受注者が負う理由はありません。
金額
理由保証の責任だけが上限の外にあると、上限を入れた意味が薄れます。
その他の権利
理由「その他の権利」を知的財産権に限定し、肖像権など受注者が調べようのない権利まで広がらないようにします。
注意の水準
理由受注者が負うのは、注意を尽くす義務であることを明確にします。
申請支援の事業を委託で続ける方の基本契約でも、非侵害の保証を「侵害しないよう合理的な範囲で注意義務を負う」形に直し、発注者や顧客の提供資料に起因するものは除く、としました。広報物のデザインのマスター契約では、日本国内での非侵害を保証したうえで、発注者が提供した素材と、受注者の指示と違う使い方による侵害は免責とし、発注者は受注者の承諾なく第三者と和解しない、と定めています。発注者が受注者に相談なく和解して、その和解金を受注者に求める、という事態を防ぐためです。
条文例4つの要素に限定をかけた保証の条(例)
1乙は、乙の知る限りにおいて、成果物が日本国内において第三者の著作権、商標権その他の知的財産権を侵害しないことを保証する。
2成果物に関して第三者から権利の侵害を理由とする請求がなされたときは、甲は速やかに乙に通知し、乙は、その解決に合理的な範囲で協力する。甲は、乙の事前の承諾なく、当該第三者と和解しない。
3前項の請求が乙の故意又は過失に起因する場合に限り、乙は、甲に生じた合理的な費用を負担する。ただし、甲の指示、甲が提供した資料若しくは素材又は甲が承認したソフトウェアに起因する場合は、この限りでない。
4前項に基づき乙が負担する額には、本契約の損害賠償の上限の定めを適用する。
過失は第3項、範囲は第1項・第3項ただし書、金額は第4項で限定しています。期間は、存続条項の側で確かめます。
スタートアップのプロダクト開発を月額で受ける方の案件では、保証の条項が交渉の中で段階的に変わっていきました。発注者の案は「保証する」でしたが、受注者の側の対案では「侵害してはならない」という義務の形に改めました。次の版で「乙の故意又は過失に起因する場合に限り」と限定し、発注者が「保証する」の文言を戻してきた版には、「乙の故意または重過失による場合を除き、直近3か月間の業務委託料相当額を上限とする」という金額の限定を加えました。文言の形を相手に譲っても、帰責事由か金額のどちらかで限定をかければ、受注者の負担は見通せるものになります。
4つの要素のうち期間は、保証の条そのものではなく、契約の終了後も効力が続く条項を並べた存続条項の書き方で決まります。保証の条が存続条項に挙げられていて期間の定めがなければ、契約が終わった後も、いつまでも責任が残ります。過失・範囲・金額の3つに限定が入っていれば、期間が残っても負担の大きさは見通せますが、限定が入らないまま存続条項の対象になっていると、受注者は終わったはずの仕事の責任を抱え続けることになります。保証の条を直すときは、存続条項の側も開いて確かめます。
確かめる問い 保証の条項を読むとき
- 「保証する」の形か、「注意を尽くす」「知る限り」の形か。保証の形は、過失がなくても責任を負うと読まれやすくなります。
- 原因が発注者の指示・提供素材・技術情報にある場合も、受注者の責任か。原因が発注者の側にあるなら、発注者が負うのが筋です。
- 負担する額に、賠償の上限がかかるか。保証の責任が上限の例外になっていないかを確かめます。
- 存続条項の対象になっていないか。期間の定めはあるか。契約が終わった後も、いつまで責任が残るかが決まります。
- 発注者が第三者と和解するとき、受注者の承諾は要るか。相談なく和解されると、和解の内容に意見を言えないまま費用を求められかねません。
発注者の指示・提供した素材が原因のとき
受注者が受けた業務では、発注者から画像・ロゴ・文章・出演者の写真などの素材を受け取って成果物を作ることがよくあります。その素材に第三者の権利の問題があった場合、受注者に責任を負わせる理由はありません。けれども、受け取った契約書の多くは、この点を何も定めていないか、受注者の保証の範囲に含めてしまっています。
設立から間もない会社からコーチングを受託する方の契約では、任意の修正の提案として、「甲から提供された資料若しくは貸与品又は甲の指示に起因する場合は、乙はその責任を負わない」という一文を加えました。同じ契約の別の条にも同じ趣旨の定めがあったため、それと平仄を合わせた書き方です。
受注者のために作成したと見られる動画制作の基本契約では、さらに進んで、発注者の側に表明保証(ある事実が真実であることを表明し、それを保証すること)をさせていました。
条文例発注者の提供素材についての表明保証(例)
1甲は、乙に提供する画像、ロゴ、文章、出演者の肖像その他の素材(以下「提供素材」という。)について、本件業務に利用するために必要な権利処理を完了していることを表明し、保証する。
2提供素材に関して第三者との間で紛争が生じたときは、甲は、自らの責任と費用でこれを解決し、乙を防御し、乙に生じた損害(合理的な弁護士費用を含む。)を補償する。
3提供素材に起因する成果物の修正又は再制作は追加作業とし、その費用は甲が負担する。
4乙は、提供素材の適法性を調査する義務を負わない。
第4項は、受注者が提供素材の権利関係を調べなかったことを過失と言われないための定めです。
ロゴ・名刺の顧客と結ぶデザイナーの方の契約書や、インテリアコーディネーターの方の自社の契約書と見られる書類でも、発注者の提供素材について発注者が責任を負う定めを置いています。受注者が自分で契約書を用意するなら、提供素材の責任の定めは、ほぼ必ず入れておきたい条項です。
オープンソース・素材サイト・フォントの扱い
受注者が自分で選んで使う素材にも、保証の条項は及びます。仲介会社が登録パートナーに再委託する基本契約のレビューでは、オープンソースのソフトウェアを適法に使っていても、ライセンスの解釈を誤った場合に全面的な責任を負う書き方になっている点を指摘しました。オープンソースのライセンスは種類が多く、条件の読み方が分かれることもあります。受注者が誠実に選んで使っても、解釈の違いで侵害と言われる可能性は残ります。
クリエイティブ支援の月額契約でも、素材サイトやフォントのライセンスに関して受注者が責任を負う書き方でした。素材サイトの利用規約は改定されることがあり、商用利用の範囲や表示の義務も素材ごとに違います。
副業エンジニアの方の案件では、運用の工夫として、発注者が承認したオープンソースのソフトウェアは保証の対象から外す、という方法を示しました。使う前に一覧を示して承認を得ておけば、使ったこと自体を後から問題にされにくくなります。素材やフォントも同じで、使う素材の出典とライセンスの条件を記録し、必要に応じて発注者に共有しておくと、受注者が注意を尽くしたことを示す材料になります。
受注者が選ぶ素材について、残しておく記録
- 使ったオープンソースのソフトウェアの名前・バージョン・ライセンスの種類
- 発注者に一覧を示して承認を得た日と方法(メール・チャット)
- 素材サイト・フォントの出典、ダウンロードした日、その時点の利用規約の条件
- 発注者から受け取った素材と、受注者が用意した素材の区別
- 発注者の指示で使い方を変えた場合は、その指示の記録
契約を直せないときの運用
契約書の修正に応じてもらえない場合や、修正するほどの条項ではない場合は、運用で守る方法もあります。EC運営会社から商品の登録・顧客対応・海外の代行を受託する方の、基本契約を兼ねた秘密保持契約のレビューでは、保証や補償の条項がなく、賠償の上限も定められていることを確認しました。依頼者の「画像の権利で責任を負わないか」という質問に対しては、包括的な保証の条項も補償の条項もなく、上限もあることを伝えたうえで、運用で次の2点を徹底するよう助言しました。
- 商品の画像などは、発注者から提供された素材だけを使う運用を徹底する。
- 「提供素材に第三者の権利の侵害がないことは発注者が保証する」という確認を、メール等で取っておく。
契約書に保証の条項がない場合でも、受注者が自分の判断で外部の素材を使えば、その素材について責任を問われる可能性は残ります。提供素材だけを使い、その素材について発注者の確認を記録に残しておけば、契約書を直さなくても、受注者の側の備えになります。
文面の例 提供素材についての確認をメールで取るとき
いつもお世話になっております。商品ページの作成にあたり、画像・説明文はご提供いただいた素材のみを使用いたします。
念のための確認でございますが、ご提供の素材につきましては、ページへの掲載に必要な権利の処理がお済みであり、第三者の権利を侵害するものではないとの理解でよろしいでしょうか。追加の素材が必要な場合は、こちらで用意する前にご相談いたします。
返信の記録が、提供素材の権利を発注者が保証したことの証拠になります。こちらで素材を用意する場合は事前に相談する、と添えておくと、受注者が選んだ素材の範囲も明確になります。
交渉の順位:譲るべきでない2点
保証の条項の修正は、すべてを通そうとすると交渉が長引きます。副業エンジニアの方の案件で事務所が作成した手元用の交渉ガイドでは、保証の条項の中で「最も譲るべきでない」のは次の2点だとしました。
- 発注者の指示・提供資料が原因なら免責とすること。
- 受注者が責任を負うのは、故意又は過失がある場合に限ること。
この2点が入れば、知る限りにおいての保証や、紛争への協力の範囲は、相手方の希望に合わせて調整してもかまいません。反対に、この2点がどうしても拒まれる場合は、受注を見送ることも検討する、と位置付けました。同じ案件で、既存の知的財産の使用禁止の条項と並んで、保証の条項を「直らなければ見送りも検討」の最上位に置いたのは、この2つが、受注者の努力では避けられない責任を負わせる条項だからです(修正の伝え方)。
保証の条項は、賠償の条項とも結び付いています。雇用からの切替えの基本契約では、第三者の権利の侵害について、弁護士費用を含む損害の「全て」を賠償するとし、賠償の上限との関係が分からない作りでした。保証を直しても、賠償の条項で全額の負担が残っていれば意味がありません。保証の条項を直すときは、上限の条項が保証の責任にもかかるかを必ず確かめます。
保証は、契約書の本体だけでなく、納品の後に交わす書面にも入り込みます。ロゴを納品して支払を受けた後に、発注者から著作権の譲渡の「確認書」を求められたデザイナーの方の案件では、確認書に第三者の権利を侵害していないことの保証が含まれていました。ロゴは、発注者の事業が広がるほど使われる場面も増え、侵害を主張されたときの損害も大きくなり得ます。事務所は、保証を「受託者が知り得る限りにおいて」の知的財産権に限定し、責任の上限を対価の額とする修正を、確認書の修正の優先順位の2番目に置きました(知的財産)。
受注者に起きがちなこと
よくあるご質問
「第三者の権利を侵害しないことを保証する」は、サインしてよいですか?
そのままだと、過失がない場合や発注者の指示が原因の場合にも責任を負うと読まれやすい書き方です。「知る限りにおいて」の保証にする、故意又は過失がある場合に限る、発注者の指示・提供資料が原因なら免責とする、上限を適用する、といった修正をお願いします。
発注者から渡された素材が他人のものだったら、誰が責任を負いますか?
契約に定めがなければ争いになります。発注者が提供素材の権利処理を表明保証し、紛争は発注者が解決して受注者を補償する、受注者は素材の適法性を調査する義務を負わない、と定めておくのが受注者の側の基本です。
フリー素材・フォント・オープンソースを使った場合の責任は?
受注者が選んだ素材は、保証の対象になり得ます。使う前に一覧を示して発注者の承認を得て、承認済みのものは保証の対象外とする運用にし、出典とライセンスの条件の記録を残しておくと、注意を尽くしたことを示せます。
保証に上限をかけることはできますか?
できます。保証の責任にも賠償の上限の条項を適用すると明記するか、保証の条項の中で「直近◯か月間の業務委託料相当額を上限とする」と定めます。故意・重過失の場合だけ上限を外す形にすると、受け入れられやすくなります。
契約書に保証の条項がなければ、責任はありませんか?
条項がなくても、受注者が自分の判断で使った外部の素材について責任を問われる可能性は残ります。発注者から提供された素材だけを使い、その素材について発注者が権利を保証する確認をメール等で取っておく、という運用で備えます。
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