このページの要点
- 延期・不支給・承認・相殺など、発注者の判断だけで支払を止められる条項を見つけ、理由を客観的なものに限る。
- 争いのない部分は期限までに払い、請求書の発行の有無は支払の時期に影響しない、と定める。
- 経費は誰の都合で生じたかで分け、受注者の負担を残すなら上限と承認の手続を置く。
- 途中で終わったときは、実施した業務を契約の単価で算定して払う。協議に委ねる定めは避ける。
最初に押さえること:報酬の条は「いつ確定し、いつ払われ、何で止まるか」で読む
受け取った業務委託契約書の報酬の条を読むとき、金額や支払日だけを見て安心してしまうことがあります。けれども、受注者の側でレビューした契約書で問題になったのは、多くの場合、支払を止められる仕組みのほうでした。
事務所は、報酬に関する条項を次の3つの問いで読んでいます。
- 報酬の額は、いつ確定するのか(着手の前か、発注者の承認の後か、個別の発注まで決まらないのか)。
- 支払期日は、いつ来るのか(検収との結び付き、請求書の要否、締日と支払日)。
- 何があれば支払が止まるのか(延期の条項、承認の条項、相殺の条項、履行しない場合の不支給)。
このページでは、受け取った条文で見られた支払を止める仕組みと、受注者の側で提案した直し方を紹介します。支払期日の法律上の上限はフリーランス法・取適法、途中で契約が終わったときの精算は解約・解除と精算のページもあわせてご覧ください。
支払を止められる条項の型
受け取った契約書で見られた、支払を止める仕組み
| 型 | 受け取った文言の例 | 受注者に起きること |
|---|---|---|
| 延期の条項 | クレーム又は特殊事情により支払を延期できる | 定義のない「クレーム」「特殊事情」で、支払が止まる |
| 不支給の条項 | 乙が甲の責めに帰すべき事由以外の事由により本業務を履行しない場合、甲は報酬支払義務を負わない | 作業をしていても「履行していない」と判断されれば支払われない |
| 後出しの条項 | 報酬・算定方法・締日・支払日は個別契約で定める | 着手した後に報酬が決まり、「範囲内」「修正は当然」と言われやすい |
| 承認の条項 | 甲の承認を得て数量を変更して請求する | 承認の基準がなく、承認されるまで請求できない |
| 上限の後出し | 月の稼働工数の上限を甲が別途定めて通知し、超過分は請求できない | 通知の時期も変更の手続も分からないまま、作業した分が請求できなくなる |
| 相殺の条項 | 報酬支払債務と損害賠償債権を相殺できる | 「損害がある」と主張するだけで支払が止まる |
これらは、どれも単独では「念のための条項」に見えます。しかし、支払を止める判断を発注者だけができ、その基準が書かれていない点で共通しています。受注者の側で直すときは、止める理由を客観的なものに限ることと、争いのない部分は先に払うことの2つを軸にします。
受け取った契約書を個人で読み直すときは、請求の前に発注者の「承認」や「異議の期間」が挟まっていないかを確かめます。時間単価の個別契約で「甲の承認を得て数量を変更して請求」とだけ書かれていた例では、承認の基準がなく、承認されるまで報酬の額が決まらない作りでした。受注者の側では、修正を求められるのは客観的かつ合理的な理由がある場合に限ること、一定の日数のうちに異議がなければ承認したものとみなすことを提案します。時間の端数の切捨てや、短い異議の期間で請求を打ち切る定めも、同じ箇所に置かれていることが多いので、あわせて読みます。追加作業の単価をあらかじめ決めておくことも、承認をめぐる争いを減らします(業務範囲・修正回数)。
多層取引の支払延期の条項を直す
店舗の照明機材の更新と設定を、多層の下請の二次受けとして受けた方の案件では、一次受けの原案に「クレームまたは特殊事情により支払を延期できる」という条項がありました。事務所の報告書では、これを契約書の中で最も重大なリスクと評価しました。
多層の取引では、元請の側の都合(顧客からのクレーム、社内の承認の遅れ、資金繰り)が、最も下流にいる受注者に波及しやすい構造があります。しかも、この条項には「クレーム」の定義がないため、受注者の作業と関係のないクレームでも延期の理由になり得ます。実質的には、支払を拒む条項として機能しかねません。
条文例多層取引の対案での支払の条(例)
1甲は、本件業務の検収の完了を条件として、本件業務の報酬を、所定の確定日までに乙の指定する口座に振り込む方法により支払う。乙による請求書の発行の有無は、支払の時期に影響しない。
2甲は、いかなる理由があっても、前項の支払期限を延期し、又は変更することができない。
3報酬の一部について当事者間に争いがある場合であっても、甲は、争いのない部分を前項の期限までに支払う。
4甲は、乙の書面による承諾なく、本契約に基づく報酬の支払債務と、乙に対する債権とを相殺することができない。
5甲が支払を遅延したときは、甲は乙に対し、支払期日の翌日から支払済みまで年14.6%の割合による遅延損害金を支払う。
6本件業務の報酬の支払にあたり源泉徴収が必要な場合は、甲は、法令に従い源泉所得税を控除して支払う。
第1項の「請求書の発行の有無は影響しない」は、請求書の不備を理由とした支払の先送りを防ぐための一文です。
支払の条が検収の条を引用するときは、条番号だけでなく「検収の完了」という中身で結び付けておくと、後から条文を挿入・削除しても意味がずれません。多層の取引では元請の側の事情が支払に持ち込まれやすいため、受注者の側では、自分が受けた検収の完了だけを支払の条件にしておくことが大切です。
報酬が「後出し」になる約款と、相殺の条項
在宅で成果物を納める方の約款では、報酬の額・算定の方法・締日・支払日がすべて個別の契約に委ねられていました。事務所のレビューでは、対価が後出しになると「作業範囲に含まれる」「修正は当然」「検収が終わっていないから払えない」という型に入りやすいと指摘し、着手の前に、次の事項をメールでもよいので確定させるよう助言しました。
約款の報酬が未確定のとき、着手前に確定させること
- 報酬の算定の方式、単価、追加作業の単価
- 締日・支払日、検収との結び付き、振込手数料の負担
- 無償の修正の回数
- 解除されたときの精算の方法
- 賠償の上限
約款そのものを直せなくても、個別の発注の側で確定させておけば、後出しの余地は小さくなります。
同じ約款には、報酬の支払債務と損害賠償の債権を相殺できるという条項もありました。相殺とは、互いに同じ種類の債務を負っているときに、対当額で債務を消し合うことです。民法では、双方の債務が弁済期にあることが要件になっています(民法505条1項)。事務所は、相殺の対象を、確定判決又は書面の合意で確定した債権に限るよう提案しました。相殺の条項は、上限のない賠償の条項と組み合わさると、報酬の全額が止まる道筋になります(損害賠償の上限)。
雇用からの切替えの基本契約では、「履行期限如何にかかわらず」相殺できると書かれていました。これは民法505条の要件を超えて相殺を広げるもので、実質的には支払を留保する条項です。事務所は、履行期が到来し争いのない債権に限ること、相殺の前に書面で通知し協議の期間を置くことを提案しました。受注者のために作成したと見られる動画制作の基本契約では、反対に、甲は乙の書面の承諾なく相殺できない、と定めていました。
受け取った条文の直し方 後出しと不支給の条項
履行しない場合の不支給
理由作業をしたのに「履行しない」と判断されれば、全部が不支給になり得る書き方です。
工数の上限の後出し
理由通知の時期・変更の手続・異議の余地が書かれていないと、作業した後で上限を下げられても争えません。
発注者の規程で決まる報酬
理由発注者が一方的に変えられる規程に報酬を委ねると、契約の外で報酬が下がります。
経費と立替えの負担
経費の負担も、受注者の実質的な手取りを左右します。在宅で成果物を納める方の約款では経費は全額受注者の負担、情報セキュリティ業務の契約ではPC・有料ツール・Wi-Fiなどがすべて受注者の負担とされていました。事務所は、発注者の指定や発注者の環境に起因する費用は発注者の負担とし、受注者の負担を残すなら上限や承認の手続を設けるよう提案しました。
多層の下請の機材設定の原案では、経費は「すべて乙負担」でした。交通費・宿泊費・人員の手配費を含めると、契約金額を超えるおそれがあります。対案では、軽微な費用は乙の負担としつつ、事前に承認された費用、通常の範囲を超える費用、甲の都合による費用は甲の負担とし、乙には立替えの義務がないこと、立て替えた分は7日以内に支払うことを定めました。商品企画の契約、技術製品の設計支援の契約、仲介会社経由の開発支援の契約では、事前の承認(書面又は電磁的記録)と領収書の提出を条件に発注者が負担する形が採られています。
準委任の作りの契約では、受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したとき、その償還を請求できます(民法650条1項)。経費の条項がない準委任の契約では、この規定との関係で、何を誰が負担するのか行き違いが生じることがあります。受注者が自分で用意した契約書で、依頼者から「交通費の条項は不要」と言われたときも、事務所は条項を消すのではなく、「乙の負担とする」と1文で置き換える形を提案しました。どちらの負担にするにしても、書いておくことが行き違いを防ぎます。
時給・月額・最低保証の書き方
育児中の方が時給制・時間固定の業務委託を3か月受ける案件では、依頼者から「時給×5時間が日給ということか」という質問がありました。契約書を読むと、時給に休憩1時間を除いた実働5.5時間を掛けたものが日給と解釈される書き方でした。事務所は、報酬の計算の単位(分単位か)と端数の処理を明記してもらうよう助言しました。時間で報酬が決まる契約では、端数の扱いが積み重なって、実質的な単価が変わります。
申請支援の事業を退職後に業務委託で続ける方の個別契約では、報酬が担当する社数に応じた月額で、2社未満が3か月続けば見直しを協議する、という作りでした。事務所は、最低保証が弱いと指摘し、開始から3か月は担当数にかかわらず月額の下限を保証すること、月の途中から始まる場合は15日までの開始なら全額、16日以降なら50%とすることを提案しました。また、営業のインセンティブは委託料とは別の独立した報酬とし、「委託料の減額又は不支払の理由として用いられてはならない」と明記しました。成果に連動する報酬があると、成果が出ない月に基本の報酬まで削られることがあるためです。
反対に、受け取った契約書の支払条件が受注者に有利なこともあります。個人で時給制の業務を受ける方の契約のレビューでは、支払日が休日なら直前の営業日に前倒しする定め、報酬を税別で表示して消費税を加算する定め(免税事業者でも税込で請求できる根拠になる)を、直さずに残す条項として示しました。読み直しの段階で有利な条項に印を付けておくと、修正のお願いを本当に必要なものに絞れます(読む順番)。
消費税・源泉所得税・インボイス(適格請求書)の扱いも、報酬の条で読み落としやすいところです。スタートアップのプロダクト開発を月額で受ける方の契約では、報酬の表示を「税抜・源泉所得税控除前」に統一しました。税込か税抜か、源泉徴収の前か後かがあいまいだと、毎月の請求のたびに金額の確認が必要になります。受注者のために作成した契約書の中には、受注者が適格請求書発行事業者の登録をしていないことを理由に報酬を減額しない、と定めた例があります。登録の有無で報酬がどう変わるのか、変わらないのかを、契約書で確かめておきます。検収と支払の結び付きは検収・契約不適合のページで扱っています。
途中で終わったときの報酬と、支払が遅れたとき
設立から間もない会社からオンラインのコーチングを受託する方の契約では、途中で契約が終了したときの報酬が「履行状況・成果物等を勘案して甲乙協議のうえ定めた額」とされていました。協議で決めるという定めは、協議がまとまらなければ報酬が決まらないということです。事務所は、終了時までに乙が現に実施した業務の委託料を、契約に定めた単価に従って算定し、通常の支払の定めに準じて支払う、という形に直す修正の文案を作成しました。単価が決まっている契約なら、途中の精算も単価で計算できます。準委任の作りの契約では、途中で終わっても既にした履行の割合に応じて報酬を請求できるのが民法の初期設定なので(民法648条3項)、単価で算定するという定めは、その初期設定を具体的な計算の方法として書き表したものとも言えます。協議に委ねる定めは、この初期設定よりも受注者に不利な方向に働きかねません。
広報物のデザインを継続して受ける方のマスター契約では、原案が「納品・検収完了後、請求に基づき支払う」とだけ定めていました。事務所の修正版では、次のように具体化しています。
受け取った条文の直し方 支払期日と、支払を拒むときの手続
支払期日
理由いつまでに払うかが書かれていなければ、支払の遅れを指摘できません。
遅延損害金
理由定めがなければ法定利率(民法404条。3年ごとに見直される変動制)によります。
支払を拒む・減額するとき
理由拒む側に理由と期限を求めることで、黙って支払わない状態を防ぎます。
支払が遅れたときに作業を止められるかどうかも、契約で決めておくべき事項です。オンライン講座の事業者の販売導線の構築を受ける方が自分で用意した契約書では、支払期日から7日が過ぎたら通知のうえ業務の遂行を停止でき、停止による遅れの責任を負わず、停止の期間の月額も減額しないこと、30日以上の未払いで催告なしに解除できることを定めました。未払いの間は、終了時の設定の一覧の引渡しを留保でき、発注者は受注者の権限を削除しない、という定めもあります。受注者にとって、作業を止める権利と、成果を渡さずにおく権利は、支払を促す数少ない手段です。
報酬の条で確かめること(まとめ)
- 報酬の額と算定の方法は、着手の前に確定しているか(個別の発注に委ねられていないか)
- 支払期日は、受領から60日以内か。検収が長引いても支払が遅れない作りか
- 延期・不支給・承認・相殺など、発注者の判断だけで支払を止められる条項はないか
- 経費・立替えの負担は、誰の都合で生じた費用かで分けられているか
- 時間・分の端数、消費税・源泉所得税の扱いは明確か
- 途中で終わったとき、支払が遅れたときの扱いが決まっているか
受注者に起きがちなこと
よくあるご質問
「特殊事情があれば支払を延期できる」という条項は、受け入れてよいですか?
定義のない「特殊事情」「クレーム」で支払が止まる、実質的な支払拒絶の条項になり得ます。受注者の側では、いかなる理由でも支払期限を延期できないこと、争いのない部分は期限までに払うことを定めるよう修正をお願いします。
発注者の承認がないと請求できない条項は、どう直せばよいですか?
承認の基準がないと、承認されるまで請求できません。客観的かつ合理的な理由がある場合に限り修正を求められること、受領から一定の日数のうちに異議がなければ承認したものとみなすことを定めます。
相殺の条項は、なぜ危ないのですか?
発注者が「損害がある」と主張するだけで、報酬の支払を止められるからです。相殺の対象を確定判決や書面の合意で確定した債権に限るか、受注者の書面の承諾がなければ相殺できない、と定めます。
経費は全部自分持ちと書かれていたら、どうすればよいですか?
発注者の指定や環境、都合に起因する費用は発注者の負担とし、受注者の負担を残すなら上限や事前の承認の手続を置くよう求めます。立替えの義務がないことと、立て替えた分の支払期限も定めておくと安心です。
支払が遅れたら、作業を止めてもよいですか?
契約に定めがあれば止められます。受注者の側で書くときは、支払期日から一定の日数が過ぎたら通知のうえ業務を停止でき、その遅れの責任を負わないこと、未払いが続けば解除できることを定めておきます。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への法律の適用は、当事者の属性や取引の内容によって異なることがあります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が受注者(業務を請ける側)の立場で作成・レビューしてきた業務委託契約書、基本契約・個別契約、秘密保持契約書、誓約書、先方へ送る修正のお願いの文案などを、個別の依頼者・相手方が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月17日)。参考: e-Gov法令検索 / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会) / 法人番号公表サイト(国税庁)