このページの要点
- 業務を別紙・発注書に明記したものに限定し、含まない業務(仕様変更、機材の手配、アカウントの管理など)を列挙する。
- 修正は回数の上限と「軽微」の中身を定め、自分の不注意の修正は回数に数えない。超えたときの扱いまで書く。
- 月の目安時間は、超過したとき(事前協議と追加報酬)と満たなかったとき(減額しない)をセットで書く。
- 口頭の合意や作業の実施だけでは範囲の変更とみなさない、と定め、範囲外の依頼は見積りを出してから受ける。
最初に押さえること:範囲は「含むもの」より「どこで止まるか」で書く
受け取った業務委託契約書の業務範囲の条を読むと、業務の名前が並んだ最後に「その他付帯業務」「甲の指定する業務」と書かれていることがよくあります。受注者にとって、この一語が報酬の範囲内でこなす作業の量を決めてしまいます。
事務所が受注者の側で修正を提案するときは、業務を並べること以上に、範囲がどこで止まるかを書くことを重視しています。具体的には、次の4つです。
- 業務を、明示したものに限定する(別紙や発注書に書かれたものに限る、と書く)。
- 含まない業務を列挙する(仕様の変更、追加の設計、機材の手配、アカウントの管理など、争いになりやすいものを名指しする)。
- 修正・打合せ・作業時間の量に、数字の上限を置く。
- 範囲を超える作業は、見積りと書面の合意を経て初めて範囲に入る、と手続を書く。
このページでは、受け取った条文がどう書かれていて、それをどう直したかを、業種を横断して比べていきます。範囲を超えた作業の報酬の扱いは報酬と支払条件のページ、修正を求められたときの検収との関係は検収・契約不適合のページもあわせてご覧ください。
範囲が広がる言葉の型
受注者の側でレビューした契約書から、業務範囲を広げる言葉を拾うと、おおむね次の型に分かれます。
業務範囲を広げる言葉と、そのとき起きること
| 受け取った文言 | 起きること | 直す方向 |
|---|---|---|
| 「一切の業務」「すべての準備作業」 | 準備・資料作成・事後対応まで、どこまでも範囲に入ると主張される | 本件業務を具体的に特定し、直接必要不可欠な準備に限る |
| 「その他付帯業務」 | 業務の名前に挙がっていない作業も、付帯だから報酬に含まれると扱われる | 別紙・発注書に明記したものに限る |
| 「甲の指定する方法」「甲の指示に従い」 | 作業の方法・手順・ツールまで発注者が決め、手戻りが受注者の負担になる | 合理的な指示に限り、変更は協議で |
| 「協議の上合意した業務」 | 協議の記録があいまいなまま、合意したことにされる | 合意は書面又は電磁的記録で |
| 「再提出を繰り返す」 | 回数も期限もないやり直し | 回数の上限と、超えた分の追加報酬 |
| 打合せへの参加義務(回数の定めなし) | 長時間・反復の打合せが報酬の範囲内とされる | 回数・時間の目安と、超えた分の扱い |
| 「月◯時間程度」(超過の定めなし) | 目安を超えても精算されない | 超過の記録・事前協議・追加報酬 |
これらの言葉は、発注者の側から見れば、想定外の作業が出てきたときに契約を結び直さずに済む便利な書き方です。受注者の側で修正をお願いするときも、「全部削ってください」ではなく、範囲を特定したうえで、範囲を超えたときの手続を用意する、という形にすると受け入れられやすくなります。
業務の範囲を広げる言葉は、業務範囲の条の中だけにあるとは限りません。雇用からの切替えの基本契約では、受注者が発注者の「諸規定」を遵守する、という条項がありました。どの規定を指すのかが特定されていないと、発注者の社内の規程で定められた手続や報告、研修への参加まで、受注者の業務に含まれると主張される余地があります。事務所は、事前に開示された規程に限る、と限定するよう提案しました。遵守の条項・協力の条項・報告の条項も、業務の範囲を実質的に広げる言葉として読んでおきます。
多層の下請で受けた短期の作業:含まない業務を列挙した対案
店舗の照明機材の更新と設定を、多層の下請の二次受けとして2日間で受ける個人の方の案件では、一次受けの会社から示された簡易な契約書に、「一切の業務」「すべての準備作業」と、回数の定めのない打合せへの参加義務が書かれていました。2日間の作業のはずが、事前の調整や資料作成、事後の対応まで報酬の範囲に入る作りです。
事務所が受注者の側の対案として作成した契約書では、本件業務を、明示した2日間の設置・接続・設定と、これに直接必要不可欠な準備に限りました。そのうえで、含まない業務を次のように列挙しました。
対案で列挙した「含まない業務」
- 仕様の変更、追加の設計、追加の調整
- 過度・反復的・長時間の打合せ
- 発注者や第三者の都合による変更への対応
- 機材の発注・購入・立替え・在庫の管理
- アカウントの取得、個人情報の入力、認証情報の管理
さらに、対案の別の条で、口頭による合意、作業の実施、指示の受領その他の事実をもって、契約の変更がなされたものとはみなされない、と定めました。現場で「ついでにこれも」と頼まれて作業をしたことが、範囲の変更に同意した証拠として扱われないようにするためです。
この案件の次の版では、図面・機材リスト・設定情報などの資料の作成を本件業務から外し、必要なら別途発注とすることにしました。あわせて、報酬は施工と設定の対価であることを明記しています。資料の作成は、作業の現場では「ついで」に見えても、実際には相応の時間がかかります。報酬が何の対価なのかを書いておくと、範囲の外の作業を求められたときに、報酬に含まれていないと説明できます。
この案件の報告書では、少なくとも、支払の条項・損害賠償の条項・業務範囲の限定の3つについては必ず修正の交渉をするよう助言しました。多層の取引では、一次受けの会社も元請から短い期限で仕事を受けていることが多く、簡易な契約書のまま進めがちです。修正のお願いは、すべての条項ではなく、受注者にとって影響の大きい条項に絞って出すほうが、短い期間でも応じてもらいやすくなります(修正の伝え方)。
修正の回数と「軽微」の定義
成果物を納める業務では、修正の回数と範囲が最も争いになりやすいところです。事業会社から商品企画とサンプル制作の進行を3か月で受けた方の契約では、成果物の審査で不合格になったら「再提出を繰り返す」と書かれていました。事務所のレビューでは、再提出は最大2回まで、それを超えたら追加の委託料を協議する、という形を提案しました。また、再提出の費用を一律に受注者の負担とする定めについては、その後の版で、発注者の指示の変更、追加の要請その他発注者の責めに帰すべき事由による場合は、協議で負担を決める形に改められています。業務を変更するときは、受注者が対価と納期の見積りを出し、書面で合意する手続も入りました。
受注者のために作成したと見られる動画制作の基本契約では、無償の「軽微な修正」を2回までとし、「軽微」を具体的に定義していました。
条文例軽微な修正の定義と、追加作業の扱い(例)
1乙は、納品した成果物について、甲の求めに応じ、2回まで無償で軽微な修正を行う。軽微な修正とは、基本構成、演出方針、撮影内容、尺の構成及び制作の趣旨を変更しない範囲で行う、テロップの修正、音量又は色味の調整、モザイクの追加、効果音の変更、BGMの差替えその他これらに準ずる修正をいい、全面的な変更を含まない。
2乙の明らかな誤記その他の不注意に起因する修正は、前項の回数に含めない。
3構成の変更、追加の撮影又は収録、検収期間の経過後の修正、検収済みの部分の再修正その他前二項に定める範囲を超える作業は追加作業とし、乙は事前に見積額を示して甲の承諾を得たうえで行う。乙は、甲の承諾のない追加作業を実施する義務を負わない。
第2項のように、受注者自身の不注意の修正を回数に数えないと書いておくと、回数の上限が「ミスをごまかすための上限」ではないことが伝わり、発注者にも受け入れられやすくなります。
Webシステムの開発を受けて60日提供する方の注文書・注文請書方式の契約では、14日以内・2回までの無償修正の後は「1件」ごとの定額で対応する、と定めていました。一見明確ですが、「1件」の定義がないため、要望を細かく分けて出されると件数が膨らみ、逆にまとめて出されると1件の作業量が大きくなります。事務所の意見書では、画面単位・不具合1件単位など、何をもって1件とするかを定義するよう提案しました。あわせて、マーケティング、SEOの最適化、UI・UXの再設計など委託の外の業務を明記しています。
団体から広報物のデザインを継続的に受ける方のマスター契約では、修正の上限回数・対応期間・範囲を個別の契約(発注書やメールなど)で定め、報酬には「通常の範囲の修正作業」までを含むと整理しました。基本契約で修正のルールの枠組みを決め、案件ごとの数字は発注のときに決める形です。
修正の上限の決め方の比較(受注者の側でレビュー・作成した書類から)
| 決め方 | 中身 | 向いている業務 |
|---|---|---|
| 回数の上限+超過分の協議 | 再提出は最大2回、超えたら追加の委託料を協議 | 成果物の審査がある企画・制作 |
| 回数の上限+「軽微」の定義 | 軽微な修正を2回まで、軽微の中身を列挙、不注意の修正は回数外 | 動画・デザインなど修正の種類を分けやすい制作 |
| 期間と回数+件数の単価 | 14日以内・2回までは無償、その後は1件ごとの定額(1件の定義が必要) | システム・アプリの開発 |
| 個別の発注で数字を決める | 基本契約は枠組みだけ、回数・期間・範囲は発注書やメールで | 継続的に受けるデザイン・制作 |
| 回数ではなく目安 | 回数・時間・件数の目安、対応の時間帯、返信の目安 | 研修・コーチングなど対人の支援 |
どの決め方を選ぶにしても、上限に達したときに何が起きるか(追加の報酬か、協議か、受ける義務がないのか)までを書いておくことが大切です。上限だけを書いて超過の扱いを書かないと、上限を超えた修正を断ってよいのか、追加で請求できるのかが分からず、結局は無償で応じることになりがちです。
月の目安時間と、超過・不足の扱い
月額の報酬で継続的な支援を受ける契約では、「月◯時間程度」という目安が書かれていることがあります。副業のクリエイターが大きな会社の事業部門からクリエイティブとマーケティングの支援を月額で受ける契約では、「その他付帯業務」に加えて月60時間の目安が書かれていましたが、超えたときの記録や精算の定めがありませんでした。事務所のレビューでは、業務内容を別紙又は発注書に明記されたものに限定すること、月60時間を超える作業は別途協議のうえ追加の報酬とすることを提案しました。
技術製品の設計支援を月額固定で約7か月受ける契約では、原案には「月間◯時間程度」とだけありました。修正版の第2条では、次のように数字と扱いを決めています。
受け取った条文の直し方 月額固定と目安時間
目安の時間
理由数字がなければ、超過かどうかの判断ができません。
超過したとき
理由事後の請求では「頼んでいない」と言われやすいため、事前の協議を条件にします。
満たなかったとき
理由月額は体制を確保していることの対価でもあります。繰越しを認めると、ある月に作業が集中します。
範囲の外
理由技術支援の受注者が、最終的な判断の責任まで負わされないようにします。
月額の契約は、受注者にとって収入の見通しが立つ一方、作業量の上限がないと実質的な単価が下がっていきます。目安の時間を書くなら、超過したときと満たなかったときの扱いを、セットで書いておくことが大切です。
時間ではなく数量で月額の前提を特定する方法もあります。オンライン講座の事業者の販売導線の構築を受ける方が自分で用意した契約書では、月額の前提を「標準的なローンチ1件相当」とし、その中身を、バナー1枚、ステップ配信9通程度、セミナー2日間を1回、決済ページ1件、会員サイトの設定1件のように数量で特定しました。会員サイトへのコンテンツの登録は、ローンチ1件につき合理的に見積もる作業時間1時間までを月額の範囲としています。依頼者からは「少量なら月額内、大量なら協議としたい」という希望がありましたが、事務所は、「大量」かどうかがそのまま争点になるので、件数か時間で書くよう回答しました。言葉で程度を表す書き方は、受注者と発注者で感じ方が違うため、境目で必ずもめます。
口頭・チャットで頼まれた追加の作業
業務の範囲を契約書で決めても、実際の現場では、打合せの最後やチャットで「これも少しお願いできますか」と頼まれます。受注者が気を利かせて対応すると、それが積み重なって、いつの間にか範囲が広がっていきます。
受注者の側で書くときは、上の多層の下請の対案のように、口頭の合意や作業の実施だけでは契約の変更とみなさない、と定めておくのが一つの方法です。もう一つは、範囲の外の依頼を受けるかどうかを受注者が決められることを確認しておく方法です。
オンライン講座の事業者の販売導線の構築を受ける方が自分で用意した契約書では、依頼者から、別に見積りをする業務は自分で受けるかどうかを決めたい、という希望がありました。契約は申込みと承諾で成立し(民法522条1項)、契約をするかどうかは自由に決められる(民法521条1項)ので、範囲の外の依頼を受けるかどうかは、本来、受注者が自分で決められます。それでも事務所は、確認のための1文を加えました。その際、対象外の業務のうち一部の号だけを挙げて「受けるかどうかは乙が決める」と書くと、挙げなかった号は受ける義務があるという反対の解釈を生むため、対象外の業務全体にかかる形にしています。
確かめる問い 範囲の外の依頼を受けたとき
- その作業は、契約書のどの業務に当たるか。当たらなければ範囲の外です。付帯業務の条項がある場合は、その範囲も確認します。
- 見積りを出してから着手する手続になっているか。事前の見積りと承諾を経ていない作業は、後から報酬を請求しにくくなります。
- 合意をどこに残すか。チャットでも、作業内容・金額・期限が分かる形で残せば、後で示せる記録になります。
- 作業したことが、範囲の変更への同意と扱われないか。口頭の合意や作業の実施だけでは変更とみなさない、と書いておくと安心です。
対応の時間帯と、返信の目安
企業向けのセールス研修の講師の契約では、受講者への個別のフィードバックが「回数無制限」と書かれていました。事務所のレビューでは、「合理的な範囲」を回数・時間・件数で目安にすること、チャットの利用の時間帯、返信の義務の有無と対応時間の目安、返信が遅れたときの責任の制限を定めることを提案しました。
チャットやメッセージアプリで発注者とつながる仕事では、業務の量だけでなく、いつ対応するかも範囲の一部です。夜間や休日の連絡にすぐ応じることが当然とされると、実質的に拘束される時間が長くなります。返信の目安を「営業日の◯時から◯時までに受けた連絡には、原則として翌営業日までに返信する」のように書いておけば、受注者の働き方を守るとともに、発注者にとっても対応の見通しが立ちます。対応時間の書き方は、業務委託の独立性を保つうえでも意味があります(競業・再委託・独立性)。
同じ研修の契約の再レビューでは、返信が遅れたときの責任の制限も重視しました。「返信は原則として翌営業日まで」と目安を書いても、遅れたときに債務不履行として扱われるのでは、目安を書いた意味が薄れます。目安は目安であり、遅れても直ちに契約違反にはならない、と書き添えておくと、受注者は安心して目安を示せます。受講者の人数が増えたときに、個別のフィードバックの総量がどう変わるかも、回数や件数の目安で決めておけば、報酬の見直しを相談するきっかけになります。
受注者に起きがちなこと
よくあるご質問
「その他付帯業務」は、削ってもらうべきですか?
削れなくても、業務を別紙や発注書に明記されたものに限る、と書いてもらえば範囲は特定できます。あわせて、範囲を超える作業は見積りと書面の合意を経て行う、と手続を定めておくと、付帯業務の名目で作業が膨らむのを防げます。
修正は何回までと書けばよいですか?
事務所の書類では、無償の修正を2回までとする例が多くあります。回数だけでなく、「軽微な修正」の中身(構成や方針を変えない範囲の調整など)を定義し、受注者自身の不注意の修正は回数に数えない、と書いておくと受け入れられやすくなります。
口頭で頼まれた追加の作業は、報酬を請求できますか?
契約で範囲の外と定めた作業であれば、別途の合意に基づいて請求する余地があります。ただし、事前に金額を合意していないと争いになりやすいため、見積りを出して承諾を得てから着手し、その記録をチャットやメールで残しておきます。
月の目安時間を超えたら、どうなりますか?
契約に超過の定めがなければ、月額のままとされることが多いのが実情です。目安の時間を書くなら、超過の見込みが出たら事前に協議して追加の報酬を書面にすること、満たなくても体制を維持していれば減額しないことを、セットで定めます。
自分のケアレスミスの修正も、修正回数に入りますか?
契約の書き方によります。受注者の側で書く場合は、明らかな誤記など自分の不注意による修正は回数に数えない、と定めておくと公平で、発注者にも受け入れられやすくなります。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への法律の適用は、当事者の属性や取引の内容によって異なることがあります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が受注者(業務を請ける側)の立場で作成・レビューしてきた業務委託契約書、基本契約・個別契約、秘密保持契約書、誓約書、先方へ送る修正のお願いの文案などを、個別の依頼者・相手方が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月17日)。参考: e-Gov法令検索 / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会) / 法人番号公表サイト(国税庁)