受注者が病気・けが・出産・介護で続けられないとき

一人で受ける仕事は、自分が動けなくなったときの定めがないと、民法の初期設定で処理されます。

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入院して連絡できない間に、「連絡が取れない」として無催告で解除されることがあります。停止の通知の効力を、契約書で先に決めておきます。

このページの要点

  • 停止と解約を2段階で定める。事由は病気・けが・妊娠・出産・育児・介護その他のやむを得ない事由とし、事由の説明は合理的な範囲に限る。
  • 報酬は、日割りの按分の方法と対象を書く。前払いを受けているなら、履行済みの割合の物差しと、返還の期限、手数料の負担も決める。
  • 代わりの担当者で続けるときは、承諾の方法(メールで足りる)、秘密保持、責任の所在を書く。再委託を禁じる契約では先に直す。
  • フリーランス法13条の対象は妊娠・出産・育児・介護で、本人の病気・けがは含まれない。連絡不能による解除から、停止の通知中を除く。

最初に押さえること:一人で受ける仕事は、「自分が動けなくなったとき」の定めがないと民法の初期設定で処理される

個人で受ける業務委託は、受注者本人が動けなくなると、仕事が止まります。代わりに作業をする従業員がいないからです。病気やけが、出産、育児、家族の介護で、予定どおりに業務を続けられなくなる事態は、誰にでも起こり得ます。ところが、発注者から出される契約書には、受注者の側の事情による停止や解約の定めがないことが多く、あっても、発注者の都合による解約や、受注者の債務不履行による解除の定めばかりです。

事務所が受注者の側で扱った契約書では、次の4点を決めておくと、止まったときの混乱が小さくなりました。

  1. 停止できるか。事由が生じたとき、通知して業務を一時停止でき、その間は債務不履行にならないか。
  2. 報酬をどうするか。停止中と、解約した月の報酬、前払いを受けていれば返す額はいくらか。
  3. 代わりの人を使えるか。再委託や代わりの担当者で続けることを、発注者が認めるか。
  4. どう終えるか。解約の日、予告の期間、進行中の業務の引継ぎ、賠償の有無。

このページは、受注者が自分で契約書を用意する場合と、発注者の契約書に追加をお願いする場合の両方を想定して、この4点の書き方を示します。公的な給付や保険、休業に関する手続は扱いません。契約全体の終わらせ方は解約・解除と精算、再委託の定めは競業・再委託・独立性のページが土台になります。

確かめる問い 契約書を整える前に、自分に確かめる

  1. 自分の代わりに、同じ業務を引き受けられる人はいますか。いるかどうかで、停止だけで足りるのか、再委託を定めておくのかが変わります。
  2. 報酬は、時給・月額・成果物ごと・前払いのどれですか。停止中や解約月の報酬の計算方法が、報酬の形で変わります。
  3. 止まったときに、最低限続けたい作業はありますか。公開済みの内容の保守や、期限の迫った申請など、止められない作業を先に洗い出します。
  4. 発注者のアカウントや資料を、どこに預かっていますか。引継ぎが必要な情報の置き場所が決まっていないと、短期間に引き渡せません。
  5. 個人情報や秘密情報を扱う業務ですか。代わりの人に渡せる情報の範囲と、守秘の条件が変わります。

契約書に何も書いていないとき:民法の初期設定でどうなるか

受注者が続けられなくなったとき、契約書に定めがなければ、民法の規定によって処理されます。契約の型によって、結論が変わります。

契約の型ごとの初期設定

契約の型受注者が続けられなくなったとき報酬受注者の側から終えるとき
準委任(時間や月額で業務を受ける型)履行できない間は、債務不履行の問題になり得る。発注者は、いつでも解除できる(民法651条1項)委任者の責めに帰することができない事由で履行できなくなったときは、既にした履行の割合に応じて報酬を請求できる(民法648条3項1号)いつでも解除できるが、相手方に不利な時期の解除は、やむを得ない事由がない限り損害賠償の問題になる(民法651条)
請負(成果物を完成させる型)遅れているだけなら催告による解除(民法541条)、全部の履行が不能なら催告なしの解除(民法542条1項1号)の問題になる完成前に解除されたとき等は、可分な部分の給付で発注者が利益を受けるなら、その割合に応じて請求できる(民法634条)民法に、受注者からいつでもやめられる規定はない(民法641条は注文者の解除権)

どちらの型でも、受注者の責めに帰することができない事由による不履行について、損害賠償の責任は免れます(民法415条1項ただし書)。解除は、受注者の責めに帰すべき事由がなくても成り立つ点に注意が要ります。受注者に過失がなくても発注者は契約を解除できるので、損害賠償の責任と、契約が終わることは別に考える必要があります。履行できなくなった部分について、発注者が反対給付、つまり報酬の支払を拒める場面もあります(民法536条1項)。

病気や出産、介護が、「やむを得ない事由」や「責めに帰することができない事由」に当たるかどうかは、具体的な事情によります。当たると見込まれる場面でも、契約書に何も書かなければ、停止の通知がいつまでに必要か、報酬の日割りをどう計算するか、前払いの返金をどうするかは、争いになってから決めることになります。初期設定のままにしないで、契約書で具体化する理由はここにあります。

業務の停止と解約の定め:事由を並べ、通知し、説明の範囲を決める

構築の代行を受ける個人事業者が自分で用意した契約書では、受注者の事情による停止と解約の定めを、次のような形にしました。事由には病気だけでなく、負傷、妊娠、出産、育児、介護を並べて、最後に「その他やむを得ない事由」を置いています。

条文例受注者の疾病等による停止と解約(受注者の側の書式の例)

1乙は、疾病、負傷、妊娠、出産、育児、介護その他乙の責めに帰することができないやむを得ない事由により、本業務の全部又は一部を遂行することが困難となったときは、甲に通知し、甲の求めに応じて合理的な範囲でその事由を説明して、当該事由が継続する間、その遂行を停止することができる。

2乙は、前項の事由により遂行を継続することが困難であるときは、解約の日を明示して、本契約の全部又は一部を解約することができる。解約の日は、通知が甲に到達した日の翌日から起算して14日を経過する日以後の日とする。ただし、直ちに遂行することが不可能となったときは、通知が甲に到達した日とする。

3前項の場合、乙は、可能な範囲で進行中の業務の状況を報告し、設定その他の引継ぎに必要な情報の一覧を作成して甲に引き渡す。

4乙は、第1項の停止又は第2項の解約について、損害賠償の責任を負わない。

月額の業務の一部を停止したときの月額報酬は、甲乙が協議して定める、と括弧書きで添えました。報酬の扱いは次の節で説明します。

この条文は、5つの工夫で組み立てています。

停止と解約の条文の工夫

工夫内容理由
事由の並べ方疾病、負傷、妊娠、出産、育児、介護その他のやむを得ない事由。受注者の責めに帰することができないものに限る列挙を広く取り、受注者の責めに帰すべき事由は含めない。後から「それは事由に当たらない」と争われる余地を減らす
停止と解約の2段階まず、事由が続く間の停止を認め、続けられないときに限り解約に進む短期の不調であれば、契約を終わらせずに戻れる。発注者にとっても、契約が突然終わるより受け入れやすい
一部の停止全部だけでなく、一部の停止、一部の解約を認める複数の業務を受けている契約で、できる分だけ続けられる
説明の範囲「甲の求めに応じて合理的な範囲で」事由を説明する病名や診断書の提出を、契約上の義務にしない。必要最小限の説明で足りる形にする
14日と、直ちに不能な場合解約の日は、到達の翌日から14日を経過する日以後。直ちに不可能なときは到達日引継ぎの時間を確保しつつ、急な入院などの場合は予告期間を待たない

14日という日数に、法律上の決まりはありません。業務の引継ぎに必要な期間を、業務の性質に応じて決めます。構築の代行は、設定を一覧にして引き渡す作業に時間がかかるため、14日を目安にしました。日常的な事務の代行であれば、もっと短い日数でも足ります。

併せて、「甲は、乙の疾病等による停止の間、乙に対して債務不履行を理由とする解除や損害賠償の請求をしない」という趣旨を明記しておくと、停止の通知の効力がはっきりします。停止の通知をしても、発注者が「連絡がない」として解除する危険については、後の節で扱います。

停止中・解約した月の報酬と、前払いの精算

報酬は、停止や解約をめぐって最も争いになりやすい点です。民法の初期設定は、準委任なら履行の割合に応じた報酬(民法648条3項)、請負なら可分な部分の割合(民法634条)で、どちらも計算の方法までは決まっていません。契約書に、計算の物差しを書いておきます。

構築の代行を受ける個人事業者の契約書では、月額の報酬を、発注者の都合や外部のツールの障害で一部が実施されなかった場合でも減額しない、と定めたうえで、日割りで減額する場合を限定しました。日割りで減額するのは、受注者の疾病等による解約や全部の停止、受注者の責めに帰すべき事由による解除の場合だけです。暦日で按分し、円未満は切り捨てます。一部の停止の場合の月額報酬は、協議で決めます。

報酬を一括で前払いしてもらう契約では、精算の設計がいっそう重要になります。事務所が扱った、経営とマーケティングのコンサルティングを一人法人が一括前払いで提供する契約では、受注者の側が、自分の代表者の疾病などのやむを得ない事由で続けられなくなったときに限って、通常の中途解約とは別に解約できる定めを置きました。予告は60日前、ただし事由のために60日前までに通知できないときは書面で直ちに解約できます。さらに、この解約と不可抗力による終了では、業務の月の報酬を日数で按分し、割引を受けていた分の精算や、最低契約期間の残りの期間に相当する損害金は、適用しない設計にしました。

終了の事由ごとの精算の考え方(前払いと最低契約期間のある契約の例)

終了の事由終了月までの報酬追加の精算
受注者の疾病等による解約(やむを得ない事由)終了日を含む月は、日数で按分する最低契約期間の残りに相当する損害金や、割引の精算は適用しない
不可抗力による終了同様に日数で按分する同様に適用しない
受注者の責めに帰すべき事由による発注者の解除同様に日数で按分する同様に適用しない
発注者の都合による中途解約(最低契約期間の内)履行済みの割合に応じた報酬契約で定めた最低契約期間の残りに相当する額などを払う設計がある

最低利用期間を定める契約には、期間中に発注者の都合で解約したときに、残りの期間に相当する額を支払う定めを置くものもあります。生成AIの活用支援を行う個人事業者の自社契約書のレビューでも、事務所は、傷病で個人事業者本人が業務を行えなくなったときの精算を、最低利用期間の定めとは別に整理する対象にしました。最低利用期間の定めは、発注者の都合による解約には働かせる一方、受注者の傷病のようなやむを得ない場面には働かせない、と分けておくと、契約全体の釣り合いが取れます。

停止・解約のときの精算の順番

  1. 終了日(または停止の開始日)を確定する通知が届いた日、解約の日を、書面かメールで確認します。
  2. 履行済みの割合を算定する月額なら日数の按分、成果物なら完成した部分や実施した作業を物差しにします。
  3. 前払いを受けていれば、履行済みの額と比べる履行済みの額を超える分は返還の対象になります。返還の期限と振込手数料の負担も決めておきます。
  4. 進行中の業務の状況と、引継ぎの情報を渡す状況の報告、設定やアカウントの一覧、資料の保存場所を渡します。
  5. 追加の精算(損害金など)を適用しないことを確認する疾病等による解約には、最低契約期間の損害金などを適用しない、と書面に残します。

前払いの返還や日割りの按分は、金額の特定値を契約書に書くより、計算の方法を書くほうが、別の契約にも使い回せます。

代わりの人・再委託で続けるときの定め

停止や解約の代わりに、代わりの人に作業を任せて契約を続ける方法もあります。準委任では、受任者は、委任者の許諾を得たとき、またはやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者を選任できません(民法644条の2第1項)。契約書が再委託を禁止していれば、代わりの人を使えるかどうかは発注者の許諾に左右されます。

補助金の申請支援を行う合同会社が、業務代行の会社から受ける基本契約の事例では、発注者の原案が、事前の書面承諾がなければ再委託を禁止していました。事務所は、受注者の責任において再委託できる形に改めました。再委託先には同じ秘密保持の義務を課し、個人情報を取り扱わせる場合は事前に通知する、発注者は合理的な理由がある場合を除いて拒めない、再委託先の行為は受注者の行為と同じ責任とする、という組立てです。この組立ては、病気などで代わりの人を立てるときにもそのまま使えます。

条文例代わりの担当者による遂行(受注者の側の書式の例)

1乙は、第○条の事由が生じたときは、甲に通知し、甲の承諾を得て、乙に代わる担当者に本業務の全部又は一部を行わせることができる。承諾は、電子メールによることができる。

2甲は、合理的な理由がある場合を除き、前項の承諾を拒まない。

3乙に代わる担当者には、乙が本契約に基づいて負う秘密保持の義務と同等の義務を課し、個人情報を取り扱わせる場合は、事前に甲に通知する。

4乙は、乙に代わる担当者の行為について、自らの行為と同一の責任を負う。

「承諾は電子メールで足りる」とするのは、緊急のときに書面の手続を待たずに済ませるためです。

ただし、本人の技能や資格、信頼を前提にする業務では、発注者が代わりの人を認めない場合があります。その場合は、停止か解約に戻ります。代わりの人に渡す情報は最小限にし、アカウントの権限は、発注者の名義で、必要な範囲だけを付与してもらうのが安全です。守秘の条項の読み方は秘密保持・NDAのページにまとめています。

平時に準備できることもあります。信頼できる同業者や外注先と、業務の内容を共有できる関係を作っておく、作業の手順を書き残しておく、といった備えです。契約書に「代わりの担当者を立てることがある」と先に書いておけば、発注者も驚きません。

育児・介護の申出と、病気・けがの違い:フリーランス法13条

フリーランス法13条は、特定業務委託事業者(従業員を使用する発注者など)に、特定受託事業者から申出があったときの配慮を求めています。対象は「妊娠、出産若しくは育児又は介護」です。6か月以上続く継続的業務委託では、配慮は義務(13条1項、施行令3条)で、それ未満の業務委託では努力義務(13条2項)です。

事由ごとの整理

事由フリーランス法13条の対象か契約書での扱い
妊娠・出産・育児・介護対象(6か月以上は義務、それ未満は努力義務)申出を受けて配慮する旨を契約書に書けば、契約上の根拠になる。停止・解約の定めと併用する
本人の病気・けが条文には入っていない契約書の停止と解約の定めで、自分で備える
子の急病など、育児に伴う急な事態育児と両立するための配慮として扱われる例がある納期の繰下げなど、申出の手順を契約書に書く

厚生労働大臣が定めた指針(令和6年5月31日の告示)は、配慮の例として、子の急病等で作業時間を予定どおり確保できなくなったときに、納期を短期間繰り下げることを挙げています。申出をしたこと又は配慮を受けたことのみを理由とする契約の解除その他の不利益な取扱いは、望ましくないとされています。その例として、介護により特定の曜日の業務が難しくなった受託者について、他の曜日では業務を続けられ契約の目的も達成できる見込みがあるのに、申出を理由に契約を解除すること、出産に関する配慮を受けたことを理由に、実際に提供しなかった業務量を超えて報酬を減額することが挙げられています。

妊娠や出産については、14条1項2号も関係します。特定業務委託事業者は、妊娠・出産に関する言動によって特定受託業務従事者の就業環境が害されることがないよう、相談に応じる体制の整備などの措置を講じる義務があります。ここでいう事由には、妊娠したこと、出産したこと、妊娠・出産に起因する症状で業務を行えないことや能率が低下したこと、妊娠・出産に関して13条による配慮の申出をしたことや配慮を受けたことが含まれます(厚生労働省関係の施行規則2条)。

事務所が構築の代行を受ける個人事業者の契約書を作ったとき、依頼者は、ハラスメントの相談と育児・介護への配慮の条項を、1つの項にまとめて短くしたい、と考えていました。事務所は、発注者が特定業務委託事業者に当たるかどうかが不明でも、契約書に書けば配慮を求める契約上の根拠になることを説明しました。そのうえで、妊娠・出産に限らず「育児、介護その他の事情」まで広げ、ハラスメントの条項と1つの項にまとめる形に改めました。家族の事情は、誰にでも将来起こり得るためです。

条文例育児・介護等への配慮の条項(受注者の側の書式の例)

1甲は、乙から、疾病、負傷、妊娠、出産、育児、介護その他の事情と本業務の遂行とを両立させるための申出があったときは、乙の状況に応じて、納期、業務量その他本業務の遂行に関する事項について必要な配慮をする。

2甲は、乙が前項の申出をしたこと又は同項の配慮を受けたことを理由として、報酬の減額、契約の解除その他の不利益な取扱いをしない。ただし、現に実施しなかった業務量に相当する報酬を支払わないことを妨げない。

法律が求める配慮は、育児と介護が中心です。疾病と負傷を並べたのは、契約で任意に加えたものです。第2項のただし書は、実施しなかった業務の分まで支払う義務を発注者に課すものではない、という釣り合いを取るための一文です。

法律の仕組みの全体はフリーランス法・取適法のページにまとめています。

発注者から先に解除されないために:連絡・予告・申告の手順

受注者が動けなくなったとき、発注者の側から先に契約を終わらされる危険があります。連絡が取れなくなったことを理由とする解除が代表的です。構築の代行を受ける個人事業者の契約書では、「所在が不明となり、又は電磁的方法による連絡に14日以上応答しないとき」を無催告解除の事由にしつつ、「第○条の停止の通知がされている場合を除く」という括弧書きを付けました。病気で連絡ができない間でも、先に停止の通知を出していれば解除されない、という設計です。

受け取った条文の直し方 連絡が取れないことを理由とする解除

連絡不能による無催告解除

受け取った条文乙の所在が不明となり、又は電磁的方法による連絡に14日以上応答しないときは、甲は催告なしに解除できる。
修正の提案乙の所在が不明となり、又は電磁的方法による連絡に14日以上応答しないとき(第○条の停止の通知がされている場合を除く)。

理由停止の通知を出せば、連絡の途絶を理由に無催告で解除されない形にします。

フリーランス法16条も関係します。特定業務委託事業者は、6か月以上続く継続的業務委託の契約を解除する場合や、期間満了後に更新しない場合には、少なくとも30日前までの予告が必要です(16条1項、施行令3条)。予告が不要な場合は、厚生労働省関係の施行規則4条に列挙されています。災害その他やむを得ない事由で予告が困難な場合、元の委託の解除で再委託の業務が大部分不要になった場合、特定受託事業者の責めに帰すべき事由により直ちに解除が必要と認められる場合、基本契約を結んでいる場合に特定受託事業者の事情で相当な期間その基本契約に基づく発注がない場合などです。

病気やけがそのものは、この列挙に書かれていません。どの号に当たるかは事案によるため、病気だから予告が不要になる、あるいは必要になると決めつけることはできません。基本契約のもとで受注者の事情により発注が長く途切れると、5号に当たる可能性が生じます。だからこそ、停止する期間の見込みと、戻れる時期を発注者と共有し、契約書にも停止の効力を書いておく意味があります。契約の終わり方の全体像は解約・解除と精算のページで説明しています。

事情の申告と協議の手順は、次の5つの順で進めます。海外在住のフリーランスの契約書でも、事情が生じたときは申告して協議し、業務量や納期を調整する条文が使われていますが、国内の契約でも同じ考え方が使えます。

事情が生じたときの手順

  1. 事由が生じたら、速やかに通知する契約書に定めた方法(書面かメール)で、事由の種類と、対応が難しくなる時期を伝えます。病名の詳細は書きません。
  2. 停止する期間の見込みと、対応できる範囲を伝える見込みが立たないときは、「改めて連絡する日」を示します。
  3. 進行中の業務と、締切を棚卸しするいつまでに何が必要かを一覧にして共有します。発注者は、代わりの手配を検討しやすくなります。
  4. 引継ぎと代わりの人の可否を相談する契約書の代わりの担当者の定めに沿って、承諾を求めます。
  5. 停止・納期の変更・縮小・解約のどれにするか協議し、合意を記録する合意は書面かメールに残します。契約書の本文を直すときは、覚書にします。

文面の例 業務の一時停止のご連絡(受注者から発注者へ)

いつもお世話になっております。○○です。

医師の指示により、○月○日から当面の間、本業務を行うことが難しくなりました。契約書第○条に基づく一時停止のご連絡として、お知らせいたします。

現在進行中の業務は、○○と○○の2件です。それぞれの状況と、締切までに必要な対応を別紙にまとめました。引継ぎに必要な資料は、○月○日までにお渡しします。

再開の時期は、現時点で見通しが立っていません。改めて○月○日にご連絡します。代わりの担当者による対応や、納期の変更について、ご相談させてください。

事由は「医師の指示により」「家族の介護のため」程度にとどめ、病名や詳細は書きません。契約書の「合理的な範囲で説明」を超えて求められたときは、稼働できる範囲と見込みの期間を中心に答えます。

平時のうちに整えておくこと

  • 進行中の業務の一覧と、各業務の締切、必要な資料の保存場所を、いつでも渡せる形にしておく。
  • 発注者のアカウントや設定は、発注者の名義で、必要な範囲の権限だけを付与してもらう。
  • 契約書に、停止と解約の定め、代わりの担当者の定め、連絡不能による解除の除外が入っているか確かめる。
  • 前払いを受けている契約では、履行済みの割合を、いつでも計算できる記録を残す。
  • 緊急のときの連絡先を、発注者と共有しておく。

契約書の備えと、運用の備えは、セットで機能します。契約書に書いても、引継ぎの情報がなければ、発注者は困ります。

受注者に起きがちなこと

よくあるご質問

病気で仕事ができなくなったら、報酬は全額もらえますか?

履行できなかった部分の報酬は、請求できないのが基本です。準委任なら、既にした履行の割合に応じて請求できます(民法648条3項)。月額の契約では、日割りで計算する場合と、減額しない場合を、契約書に書いておきます。停止の期間中の月額報酬を協議で決める、と書く方法もあります。

前払いで受け取った報酬は、続けられなくなったら返さなければなりませんか?

履行済みの割合を超える部分は、返還が問題になります。契約書に、履行済みの割合の物差し、返還の期限、振込手数料の負担を書きます。受注者の都合による中途解約の場合に「一切返金しない」と書いてあると、病気のような場合にも及ぶのか争いになりやすいので、疾病等による解約は別に書いて分けます。

病気やけがでも、フリーランス法13条の配慮を求められますか?

13条の対象は、妊娠、出産、育児、介護です。本人の病気やけがは、条文に入っていません。ですから、病気やけがの場合は、契約書の停止と解約の定めで備えます。子の急病で作業時間を確保できないといった、育児に伴う場面は、育児と両立するための配慮として扱われる例が、厚生労働大臣の指針に挙げられています。

診断書や病名を、発注者に伝える必要がありますか?

契約書が「合理的な範囲で事由を説明する」と定めていれば、説明が必要なのはその範囲です。病名や診断書の提出を契約上の義務にしない書き方にしておくと、事由の種類と、稼働できない期間の見込みを伝えれば足ります。求められたときは、稼働できる範囲を中心に答えます。

受注者が動けない間に、発注者から先に解除されることはありますか?

あり得ます。請負なら、遅れが続けば催告による解除(民法541条)、全部の履行が不能なら催告なしの解除(民法542条1項1号)の問題になります。準委任なら、発注者もいつでも解除できます(民法651条1項)。6か月以上続く継続的業務委託なら、30日前の予告が必要です(フリーランス法16条)が、例外もあります。停止の通知の効力と、連絡不能による解除から停止中を除く定めを、契約書に入れておきます。

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