海外在住・海外の発注者から仕事を受ける契約書(受注者の側)

国内向けの書式は「両方とも日本にいる」という前提に立っています。海外が関わる取引では、その前提を言葉にして契約書に戻します。

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準拠法を書かないと、受注者の住所地の法が推定される場合があります。書かないことは、受注者に有利とは限りません。

このページの要点

  • 準拠法・裁判管轄を書面または電磁的記録で具体的に書く。書かなければ受注者の常居所地法が推定されうる(通則法8条2項)。
  • 円建てか外貨建てか、為替の基準日、送金手数料、着金日を決める。外貨建てでも円で弁済できるのが原則(民法403条)。
  • 期限は日本時間、通知は到達した時、対応時間は稼働時間内と書く。日本語を正文にし、読めない書類にはサインしない。
  • 海外出張は事前承認と証憑、危険地域は業務の範囲外、輸出管理の判断は発注者の責任。相手の実在と最初の入金を確かめてから稼働を広げる。

最初に押さえること:国内向けの書式は「両方とも日本にいる」という書かれていない前提に立っている

日本の発注者からの仕事を、海外に住みながらオンラインで受ける。あるいは日本に住みながら、海外の会社からの依頼を受ける。仕事の進め方は国内の取引とほとんど変わりませんが、契約書は同じではありません。国内向けの業務委託契約書は、当事者が二人とも日本にいて、日本円でやり取りし、もめたら日本の裁判所で争う、という前提に立っています。この前提は条文にほとんど書かれていないので、当事者の一方が海外にいる取引では、前提が宙に浮きます。

このページは、受注者の側から、海外が関わる取引の契約書を読み、直すための整理です。想定するのは、次の二つの場面です。契約書では、仕事を頼む側を「甲」、受ける側を「乙」と呼ぶことが多いので、以下もその呼び方に合わせます。

  • 場面A:乙(受注者)が海外に住んでいて、日本の甲(発注者)から仕事を受ける。
  • 場面B:乙(受注者)が日本に住んでいて(あるいは日本で設立された法人で)、海外の甲から仕事を受ける。

受注者の側から確かめる点は、次の7か所です。

  1. 準拠法と裁判管轄:どこの法律で読み、もめたらどこの裁判所で争うのか。書いていないとどうなるのか。
  2. 通貨・為替・送金手数料:円建てか外貨か、為替の基準日、海外送金の手数料の負担、着金までの日数。
  3. 時差のある期限:納期・解約の通知・支払期日を、どの国の日付で数えるのか。
  4. 言語と署名:何語の契約書を正文とし、どう署名するのか。
  5. 海外出張・現地対応の経費と、危険な地域での業務:誰が承認し、誰が負担し、受注者の業務の範囲に入るのか。
  6. 技術や個人データが国境を越えること:輸出管理や、預かるデータの扱い。
  7. 相手の実在と、払ってもらえないときの備え:相手の会社が本当にあるのか、回収の道筋は。

事務所がこれらを整理した素材は、日本の事業者が海外在住の個人に業務を委託するときの契約書について事務所が書いた解説記事(発注者の側から書いたもの)と、そこでの落とし穴を受注者の側に裏返して読む作業、オンライン秘書の受注者の契約書、安全保障に関わり得る技術製品の設計支援を請ける受注者の契約書とNDAの修正、海外で設立された法人の受注者が日本の発注者に報酬の支払を催告した書面などです。発注者の側から書かれた記事は、受注者の側から見るとそのままチェックリストになります。個別の依頼者・相手方が特定できない形に整理しています。

契約書を受け取ったときの読む順番は契約書を受け取ったら読む順番、締結前の相手方の確認は締結前の確認のページで扱っています。ここでは、海外が関わるときに追加で必要になる論点に絞ります。

準拠法と裁判管轄:書かないと、受注者の国の法律が読まれることがある

準拠法とは、その契約を「どの国の法律で解釈するか」という取り決めです。裁判管轄とは、紛争が起きたときに「どの国のどの裁判所で争うか」という取り決めです。国内同士の契約では書かなくても日本法・日本の裁判所に決まりますが、一方が海外にいると、ここが空欄では「そもそもどこのルールで読むのか」が争点になります。

受注者の側で知っておきたいのは、準拠法を書かなかったときの扱いが、受注者に有利とは限らないことです。日本の法の適用に関する通則法は、契約の準拠法を当事者が選択できるとしています(7条)。選択がないときは、契約に最も密接な関係がある地の法によります(8条1項)。そして、契約で特徴的な給付を当事者の一方だけが行うときは、その給付を行う当事者の常居所地法(関係する事業所があればその所在地の法)を、最も密接な関係がある地の法と推定します(同条2項)。業務委託では、特徴的な給付は役務の提供のほうと考えられるので、書かなければ、受注者の住所地の法が推定される場合があります。場面Aで受注者が外国に住んでいれば、その国の法が候補になります。これは「推定」であり、結論が一つに決まるわけではないため、争いの種になります。

裁判管轄については、民事訴訟法3条の7が、当事者は合意により、いずれの国の裁判所に訴えを提起できるかを定められるとしています(1項)。この合意は、書面でしなければ効力を生じず(2項)、電磁的記録でされたときは書面とみなされます(3項)。外国の裁判所にだけ訴えを提起できる旨の合意は、その裁判所が法律上または事実上裁判権を行えないときは援用できません(4項)。つまり、管轄の合意は、書面または電磁的記録で、具体的に書くことが前提です。

準拠法と裁判管轄の選び方:受注者の側から見た比較(日本法を使う場合を中心に)

選び方受注者に有利な点気をつけること
日本法・受注者の住所に近い裁判所報酬が払われないとき、自分の住所の近くで手続できる(受注者が日本にいる場合は日本の裁判所)。日本語で書かれた契約をそのまま日本法で読める発注者が応じるとは限らない。海外の相手に対する判決を相手国で使うには、相手国の制度が関わる
日本法・発注者の所在地の裁判所契約を日本法で読める。発注者に日本の財産があれば、日本の判決で執行できる受注者が遠方の場合、訴えを起こす負担が大きい。簡易な事件でも出向く必要が出る
相手国の法・相手国の裁判所相手が受け入れやすい相手国の法律の知識がなければ、契約の読み方が判断できない。回収の費用が見通せない。原則として避ける
書かない(ない)通則法8条2項により、受注者の住所地の法が推定されうる。裁判の場所は、土俵の取り合いから始まる

場面Bのように、日本の受注者が海外の発注者に報酬を請求する場合、日本の判決を相手国で使えるかどうかは、相手国の制度によります。外国の判決を日本で使う場合は、民事訴訟法118条と民事執行法24条(執行判決)の定めがあります。

回収のことまで考えると、相手に財産がある国の裁判所を選ぶのが基本です。日本の発注者の場合は、財産の多くが日本にあるので、日本法・日本の裁判所の組合せが執行しやすくなります。場面Aで海外に住む受注者にとっては、この組合せは「自分の国の裁判所でない」不便がある一方、報酬を請求する相手の財産のある場所で手続ができる利点があります。事務所がオンライン秘書の受注者のために整えた契約書は、日本法を準拠法とし、管轄を、地方裁判所または簡易裁判所を併記した専属的合意管轄としていました。受注者の側から書く契約書では、「準拠法は日本法、管轄は受注者の側に近い裁判所」という組合せを基本に考えます。

金額が小さい取引では、裁判や仲裁の費用が報酬を上回ります。契約書の工夫としては、紛争の前に、メールなどで事情を申告して協議する手続を置き、協議がまとまらないときに裁判所へ進む、という二段にしておくのが現実的です(後の節の「事情の申告と協議」を参照)。

通貨・為替・送金手数料・支払期日:決めないと毎月の手取りが揺れる

報酬の金額が決まっていても、「何の通貨で」「どこの口座に」「手数料は誰が負担して」「いつまでに着金すれば支払ったことになるのか」が書かれていないことは少なくありません。国内取引では考えなくてよかった論点です。

確かめる問い 報酬の支払について確かめること

  1. 報酬は円建てか、外貨建てか。外貨で金額を決めても、民法403条により、債務者(発注者)は履行地における為替相場で日本円で弁済できます。外貨で受け取りたいなら、そう書いておかないと、円で払われても文句が言えません(402条3項も参照)。
  2. 為替レートの基準日はいつか。外貨建て・円換算のどちらでも、いつの時点のレートを使うかで金額が変わります。請求書の発行日、支払日など、日を決めます。
  3. 海外送金の手数料は誰が負担するのか。弁済の費用は、別段の意思表示がないときは債務者の負担です。ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、増加額は債権者の負担とされています(民法485条)。受注者が海外に住所を移したことで送金の手数料が増えるなら、その増加分は受注者の負担と読まれうるので、契約書で決めておきます。
  4. 弁済の場所はどこか。別段の意思表示がないときは、金銭の弁済は債権者の現在の住所でします(民法484条1項)。受注者が海外に住んでいれば、受注者の住所が弁済の場所になりえます。国内の口座への振込などで、場所と方法を決めます。
  5. 支払期日は「送金した日」か「着金した日」か。海外への送金は、着金までに日数がかかります。支払期日を「着金日」とするか、「発注者が送金手続をした日」とするかで、遅延の判断が変わります。
  6. 遅れたときの遅延損害金はいくらか。定めがなければ、法定利率によります(民法419条1項、404条)。利率を特約で定めるかどうかを決めます。

いちばん簡単な整理は、円建てで、日本国内の銀行口座への振込にそろえることです。受注者が日本に口座を残していれば、為替の論点も海外送金の手数料の論点も、まとめてなくなります。そろえられない場合は、為替の基準日と手数料の負担、着金までの日数を踏まえた支払期日を書きます。

月額で前払いを受ける設計も、海外では有効です。オンライン秘書の受注者の契約書では、月額報酬を前月に前払いしてもらい、入金を確認してから翌月の作業に着手する形が採られていました。海外の相手には、支払われるかどうかが見えにくいので、後払いより前払いや着手金のほうが受注者の側は安心です。報酬の支払条件全般の直し方は報酬・支払条件のページにまとめています。

報酬の額が一度決まったあとの扱いも、書いておきます。海外の取引で起きやすいのは、為替が動いたことを理由に、円建ての報酬額の見直しを求められる(または求める)ことです。発注者の側から書かれた事務所の解説記事では、「報酬は、本契約に定める業務の遂行に対する対価として、双方合意のうえ定めたものとする」「報酬の変更は、双方が書面で合意した場合に限る」という二文を勧めています。これは受注者にとっても有利です。報酬が業務との交換だと定義されていれば、発注者が「他の人は安い」「為替が変わった」と値下げを求めても、契約の枠組みでは変更の理由にならず、書面の合意が必要になるためです。

時差のある期限:納期・通知・営業日を、どの国の時間で数えるか

海外とのやり取りでいちばん頻繁に効いてくるのは、時差です。日本とのあいだに半日以上の時差がある国では、日本の月曜の朝は、向こうでは日曜の夜です。「今日中に」の「今日」が、お互いに別の日を指していることがあります。納期の「◯日中」、解約の「◯日前まで」、支払期日の「月末まで」が、どちらの国の日付なのかを書いていないと、期限ぎりぎりで解釈が分かれます。

民法は、意思表示は、その通知が相手方に到達した時から効力を生ずるとしています(97条1項)。電子メールの場合に「到達した時」がいつなのかは、受信者の側のサーバーに記録された時か、受信者が読んだ時か、という問題を含みます。そこで、契約書に書いておきます。

条文例時差のある取引の規定

1本契約における日付及び時刻は、日本時間を基準とする。

2本契約に基づく通知は、電子メール又は甲乙が合意したチャットにより行い、相手方のメールサーバー等に到達した時に到達したものとする。

3本契約における営業日は、日本の銀行の営業日をいう。乙の居住地の祝日は、営業日の計算に影響しない。

4乙は、甲からの連絡に対し、乙の稼働時間(日本時間の午前10時から午後6時まで)内に対応する。24時間の即時対応、常時の待機、休日の対応の義務は負わない。

期限の基準になる時刻は、受注者の側から見て有利な方を選ぶ必要はなく、双方が同じ時刻で数えられることが大切です。第4項は、オンライン秘書の受注者の契約書にあった、24時間対応義務を負わない旨の規定の趣旨です。

時差は、受注者が不利益を受けやすいところでもあります。深夜に連絡が来て、朝までに返事をしなければ契約違反だと言われる、ということがないように、受注者の対応時間と返信の目安を、契約の外の合意でもよいので決めておきます。リモートの仕事の不満は、業務の内容より「連絡がつかない」「いつ返事が来るかわからない」から始まることが多いと、事務所の記事でも書いています。

もう一つ、発注者の側から書かれた解説記事で勧められている条文が、事情の申告と協議です。業務量や納期の調整が必要な事情が生じたとき、受注者は、事前にメールなどの書面でその旨を通知し、双方で協議して調整する、という手続です。この条文は、受注者にとっては義務であるとともに、権利の根拠にもなります。体調や家庭の事情、滞在国での停電や災害があったときに、「申告すれば協議してもらえる」と契約に書いてあることは、リモートで働く側にとって安心材料になります。体調や育児・介護などの事情でどうしても続けられないときの停止や代わりの人の立て方は、受注者が業務を続けられないときのページで扱っています。ここでは、事情を申告できる道が契約書にあるかを確認するにとどめます。

言語と署名:日本語を正文にし、読めない書類にはサインしない

契約書を何語で作るかは、受注者の側にも重要です。日本の発注者が日本語で出した契約書を、海外在住の受注者が読めるなら、日本語版だけで問題ありません。受注者が日本語を十分に読めない場合や、滞在国での手続のために契約書を提示する必要がある場合は、翻訳版が必要になります。

そのときに必ず入れるのが、正文条項です。翻訳版と日本語版に食い違いがあったとき、どちらで読むのかを決めておきます。オンライン秘書の受注者の契約書には、「日本語版を正文とし、翻訳版との間に矛盾又は抵触がある場合には、日本語版を優先する」旨が入っていました。受注者の側から見ると、日本語を正文にすることは、日本法を準拠法にする場合の自然な形ですが、次の点に注意します。

  • 自分が読めない言語の契約書に、サインしない。正文が相手の言語なら、内容を確認できる翻訳を受け取るか、読める人に確認してもらう。
  • 翻訳版を受け取るときは、日本語版と翻訳版の食い違いを見つけたときに、署名の前に指摘する。署名してしまうと、正文のほうで読まれる。
  • 契約書の本文に出てくる専門用語(「契約不適合」「善管注意義務」など)は、翻訳で意味が少しずれることがある。重要な条項は日本語の原文で確認する。

署名の方法も、国内と違ってきます。「本書2通を作成し、記名押印のうえ各1通を保有する」と書かれていると、海外では、紙を印刷して国際郵便で送り、署名して返送するという、往復で数週間かかる手続になります。現実的なのは電子署名です。民法522条2項は、契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を要しないと定めています。電磁的記録に本人の電子署名が行われているときは、真正に成立したものと推定されます(電子署名及び認証業務に関する法律3条)。ただし、この推定は、本人だけが署名できるように符号を適正に管理していることが前提です。電子署名の依頼が先に届いて、修正の話し合いが途中のときの扱いは締結前の確認のページに書いています。契約の結びも、「本契約の成立を証するため、電磁的記録を作成し、甲乙双方が電子署名を行う」という形に書き換えておくと整合します。

海外出張・現地対応の経費と、危険な地域での業務、技術の輸出管理

海外が関わる仕事では、業務の途中で、現地への出張や現地での対応が求められることがあります。経費の扱いが、国内の仕事より、金額が大きく、リスクも大きくなります。

安全保障に関わり得る技術製品の設計支援を請ける受注者の契約書を、事務所がレビューしたとき、原案には、旅費交通費、現地活動費などを「甲の許可を得たうえで」支払う、としか書かれていませんでした。これは、海外への渡航、警備、保険、ビザなどの費用まで含みうる広い書き方で、承認の方法も、金額の上限も、緊急時の例外も、証憑(領収書)の提出も、精算の期限もありませんでした。修正版では、次の形にしています。

受け取った条文の直し方 海外出張・現地対応の経費と業務範囲

経費の承認

受け取った条文旅費交通費、現地活動費等は、甲の許可を得たうえで、甲が負担する。(承認の方法・上限・緊急時の例外・精算の期限の定めなし)
修正の提案事前に甲が承認した経費は甲の負担とする。承認は電子メール等で行う。緊急でやむを得ない場合は、乙が事後に理由を添えて報告し、甲が合理的と認めたときに承認する。乙は、領収書その他の証憑を添えて請求する。

理由承認の方法を電子メールなどの記録に残る方法に決め、緊急時の事後承認と、証憑による精算を入れます。海外では、金額が大きくなる前に上限も書きます。

業務の範囲

受け取った条文(現地での活動、海外渡航、緊急対応についての定めなし)
修正の提案現地での活動、海外への渡航、危険地域での活動、輸出管理・安全保障関連の法令の該当性の判断、製品の安全性の評価、量産対応、製造責任は、本契約の業務の範囲に含まない。これらを行うときは、別途、書面で合意する。

理由受注者が負いたくない業務を、範囲から外します。含める場合は、別途の合意で、費用と責任を決めます。

民法の原則との関係を押さえておきます。準委任の受任者が、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用と支出の日以後の利息の償還を請求でき(民法650条1項)、費用が必要なときは、受任者の請求により委任者が前払をしなければなりません(649条)。受任者が過失なく損害を受けたときは、委任者に賠償を請求できます(650条3項)。つまり、準委任では、事務の処理に必要な費用は、本来は委任者の負担です。「経費はすべて乙の負担」と書かれた契約書は、この原則と反対向きなので、海外の出張が絡む場合は特に、事前承認とセットで直す理由があります。経費の一般的な考え方は報酬・支払条件のページを参照してください。

危険な地域での業務は、さらに慎重に扱います。受注者が危険地域での業務を引き受けると、安全の確保は受注者自身の問題になります。契約書では、危険地域での活動を業務の範囲から外すか、含める場合は、渡航の可否を判断する基準(たとえば外務省の海外安全情報の区分)、保険の加入、費用の負担、中止の権限を、書面で決めておきます。

技術を扱う仕事では、輸出管理にも注意が要ります。外国為替及び外国貿易法25条1項は、国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の種類の貨物の設計、製造、使用に係る技術(特定技術)を、特定の外国(特定国)で提供することを目的とする取引などについて、経済産業大臣の許可を受けなければならないとしています。また、同条2項は、特定国以外の外国向けの提供についても、許可を受ける義務を課すことができるとしています。どの貨物・技術・仕向地が対象になるかは、政令・省令で定められます。受注者が、設計図面や技術資料を海外の相手とやり取りする仕事を引き受ける場合は、自分の仕事が許可の対象になるかどうかが問題になります。事務所が整えた修正では、輸出管理・安全保障関連の法令の該当性の判断を受注者の業務から外し、NDAにも、これらの判断の義務を乙に負わせるものではなく甲の責任で行う旨を入れています。該当性の判断を受注者に押し付けない、という考え方です。

同じ契約のNDAには、もう一つ、受注者が海外に住む場合に影響する条項がありました。受領した情報を国外に持ち出すこと、国外のサーバーに保存すること、外国法人などに開示することを、事前の書面による承諾なしには認めない、という規定です。受注者が海外に住んでいたり、海外のクラウドサービスを使っていたりすれば、この規定は、仕事を始めた時点で違反になるかもしれません。場面Aの受注者は、NDAの国外持出しの条項を、自分の作業環境と照らして確認します。NDA全般の点検は秘密保持・NDAのページを参照してください。

相手の実在と、払ってもらえないときの備え、預かるデータと資格

海外の発注者との取引で、受注者がいちばん心配するのは、相手が本当に存在するのか、仕事をして払ってもらえるのか、という点です。国内の相手なら、国税庁の法人番号公表サイトで商号と所在地を照合できます(締結前の確認のページに方法を書いています)。しかし、日本国内に拠点を登記していない海外の会社は、このサイトでは確認できないことがあります。

日本で継続して取引をする外国の会社は、日本における代表者を定めなければならず(会社法817条1項)、外国会社の登記をするまでは、日本において取引を継続することができません(同法818条1項)。日本に拠点を置く外国の会社は、登記事項証明書で確認できます。他方、海外から日本の受注者に発注するだけの会社は、日本の登記がないことも多く、登記がないことだけで直ちに不審とは言えませんが、日本から確認できる公的な情報が少ないことは確かです。確認の方法としては、次のようなものがあります。

海外の発注者との契約の前に確かめること

  • 相手の会社の正式な名称と所在地、代表者の氏名を、契約書に書いてもらい、相手国の会社登記簿など公的な情報と照合した。
  • 登録料・保証金・教材費などを受注者に先に払わせる仕組みがない(お金の流れが、発注者から受注者への一方向である)。
  • 報酬と支払期日が契約書に書いてあり、前払い・着手金・月額の前払いなど、回収の不安を減らす支払の形を選べる。
  • 最初の支払が、予定どおりに着金することを確かめてから、稼働を広げることにした。
  • 契約書に、相手の連絡先として、電子メールのアドレスと、書面を受け取る住所が書かれている。

払ってもらえないときの手順は、国内の場合と、書面の作り方の基本は変わりません。海外で設立された法人の受注者が、日本の発注者に報酬の支払を催告した書面を事務所が作成したときは、契約の日、請求の日、支払期限を整理し、履行遅滞(民法412条)と債務不履行(415条)を示して、到達後7日以内という支払の期限を置きました。差出人として、登記上の本店所在地を書き、日本で書面を受け取る連絡先も示しました。期限を過ぎても払われなければ、契約の解除や支払督促、仮差押えなどの法的措置を予告する構成です。ただ、書面を送る前に、契約書に準拠法と管轄、連絡先、支払の方法が書かれているかを確かめることが先です。そこが空欄だと、催告の書面を出しても、次の手が選びにくくなります。

最後に、預かるデータと資格の問題です。業務で扱う情報に個人データが含まれる場合、それが国境を越えると、論点が一つ増えます。日本の個人情報保護法は、個人データを外国にある第三者に提供する場合について、本人の同意の取得や、相当措置の継続的な実施の確保といった規律を置いています(28条)。日本の発注者が、海外在住の受注者に個人データを渡す場合は、発注者がこの規律を意識します。その結果、受注者の側に、日本の個人情報保護法への準拠、漏えい時の通知、データの返還・消去の義務が契約書で課されることがあります。EUのGDPR(一般データ保護規則)など、受注者の滞在国の規則も関わることがあります。契約書では、受注者が負う範囲が、自分の作業環境で守れるものかを確かめます。

もう一つは、受注者が滞在している国での、就労の資格です。国によっては、滞在資格の種類によって、できる仕事に制限があります。日本の発注者の側からは、これを確認することも保証することもできません。契約書には、「受託者は、業務の遂行に必要な滞在国における資格・許認可等を、自己の責任と負担で確保する」と書かれることが多いのですが、受注者の側から見れば、これは自分で確認して引き受ける約束です。契約の前に、自分の滞在資格でその業務を受けられるのかを、滞在国の窓口で確認しておきます。

フリーランス法は、特定受託事業者に取引条件の明示(3条)、報酬の60日以内の支払(4条)などを定めますが、受注者が海外に住んでいる場合や、発注者が海外の会社である場合に、法律がどう及ぶのかは、条文だけでは読み切れない場面があります。公正取引委員会や厚生労働省が公表している資料で確かめたうえで、適用の有無にかかわらず、契約書にも同じ内容(明示、支払期日、30日前の予告)を書いてもらうようお願いする、という考え方は有効です。段階ごとの保護はフリーランス法・取適法のページにまとめています。

受注者に起きがちなこと

よくあるご質問

準拠法と裁判管轄を契約書に書かないと、どうなりますか?

準拠法は、書かなければ契約に最も密接な関係がある地の法によります。業務委託では役務を提供する受注者の住所地の法が推定される場合があります(法の適用に関する通則法8条)。裁判管轄も、どこの国の裁判所で争うかが入口の争点になります。日本法と、受注者の側に近い裁判所を、書面または電磁的記録で具体的に書くのが基本です。

報酬を外貨で決めたのに、円で払われました。文句は言えますか?

外貨で債権額を指定したときは、債務者は、履行地における為替相場により、日本の通貨で弁済することができるとされています(民法403条)。外貨で受け取りたいときは、外貨で支払う旨と、為替の基準日を契約書に書いておく必要があります。

海外送金の手数料は、誰が負担するのですか?

別段の意思表示がないときは、弁済の費用は債務者の負担ですが、債権者が住所の移転その他の行為で費用を増加させたときは、増加額は債権者の負担です(民法485条)。受注者が海外に住所を移して手数料が増えたなら、その分は受注者の負担と読まれる可能性があるので、契約書で負担を決めておきます。

契約書が日本語で、翻訳版もあります。食い違ったらどちらが優先されますか?

契約書に正文条項があればそれに従います。日本の発注者が日本法を準拠法とする契約では、日本語版を正文とすることが多いです。署名の前に、日本語版と翻訳版の食い違いを見つけたら指摘し、重要な条項は日本語の原文で確認します。

海外出張の費用は、誰が負担するものですか?

準委任であれば、委任事務を処理するのに必要と認められる費用は委任者の負担が原則です(民法650条1項)。ただ、契約書で「乙の負担」と書かれることが多いので、事前の承認、金額の上限、緊急時の事後承認、証憑による精算を契約に書いておきます。危険な地域での活動は、業務の範囲から外すか、費用・保険・中止の権限を別に決めます。

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本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への法律の適用は、当事者の属性や取引の内容によって異なることがあります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が受注者(業務を請ける側)の立場で作成・レビューしてきた業務委託契約書、基本契約・個別契約、秘密保持契約書、誓約書、先方へ送る修正のお願いの文案などを、個別の依頼者・相手方が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月20日)。参考: e-Gov法令検索 / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会) / 法人番号公表サイト(国税庁)

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